書き込み、挟み込み万歳! 「痕跡本」がアツイ 通常は古書の価値を落とす書き込み。これを楽しもう

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さらに実例を紹介したい。

先日、古本屋でフランソワ・ボワイエ『ちびっこブーニャ』(角川文庫 1974年)という本を見かけた。別に珍しい本ではない。カバーに書かれた筋書きを紹介すると「一年で一番楽しいバカンスが来たのに、黒人の少年ブーニャは気が気ではなかった。友達が皆、林間学校に行くのに、父親が許してくれないのだ。だが、家にくすぶっているバカンスなんて。何が何でも行かねばならない。そして、ブーニャの涙ぐましい大活躍が始まった。『禁じられた遊び』の作者フランソワ・ボワイエが、笑いとペーソスのなかに、深い人間愛をうたい上げた感動の書。」とある。

あまりにも有名な名曲がテーマ曲である映画『禁じられた遊び』の原作を書いたボワイエの書いた作品なんだから、さぞ感動的なのだろう。申し訳ないが筆者はまだ読んでいないので、そこのところはよく分からない。

かくも美しい人間愛のリレー(笑)

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『ちびっこブーニャ』とビキニ姿の岡田奈々

さてこの本、1冊400円、3冊なら1000円というコーナーにあった。この本を見つけた段階で既に、そのコーナーで欲しい本が三冊あったので、『ちびっこブーニャ』にはちょっと興味があったものの、3の倍数じゃないなら無理に買うこともないかと少々迷っていた。

そしてもうちょっとどんな本か見てみようとパラパラやったところ、何か新聞の切抜きが挟んであるのに気付いた。

一昔前の本を買うと、しばしば新聞書評欄に載ったその本の評が挟んであることが多いので、さてはそれかと思ったら何の何の、「海外独占速報 ハワイ!ビキニの!岡田奈々!」という雑誌グラビアの新聞広告切り抜きであった。

角川文庫とはいえ、どちらかというと子供向け小説なので、買ったのは中学生か高校生か、あるいは学校の先生なのか。筆者が持てるデータの全てを投入した上でプロファイリングを行った結果、切り抜きの「特殊な」性質上、この本の前の持ち主は男性であるという結論に達した(え、特にプロファイリングの必要もないですか?)。

いずれにせよ姿なき「前所有者」は、「深い人間愛をうたい上げた感動の書」を購入した直後、新聞で彼の偶像たる岡田奈々の興奮すべき水着姿を見かけ、「深い特定の人間への愛」にうたれ、矢も楯もたまらず切り抜き、隠し場所に困ってここに挟んだのだろう。

そう考えると、この『ちびっこブーニャ』を買い、そこに岡田奈々のグラビア広告切抜きをひそかに隠した御仁のことが、たまらなく人間くさく、愛おしく感じられてならなかった。という訳で、こちらまで「深い人間愛」にうたれた結果、四冊と半端になってしまったけれどもこの本を買ってしまったのだった。「痕跡本」は時として、かくも美しい人間愛のリレー(笑)を形成することもあるのである。

古書山 たかし 古書蒐集家

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こしょやま たかし / Takashi Koshoyama

書籍、レコードなどの稀少な出版物を蒐集しているうちに、家の中は資料の山。その整理をめぐって家族との論争が絶えないのだが、それでも蒐集の手を緩めることはない、情熱の人。出張の折などには、古書店めぐりを欠かさない。「古書山たかし」は、もちろんペンネーム。実は会社四季報にもその名前が掲載されている上場企業の経営者だが、その正体はヒ・ミ・ツ。もちろん社業を軸に据えているので株主の皆様、ご安心ください。

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