パート主婦が社会保険拡大でもらえる「お金」 50人超の中小企業で働く社員に大きなプラス

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このように被用者保険の適用拡大は、社会的に弱い立場にあるパートや非正規社員の人たちにとってはプラス面があると同時に、正規・非正規の区別もなくしていくかもしれません。企業にとっては社会保険料の負担が増えることになりますが、「人を雇う」のであれば、フリンジベネフィット(給与以外に与える利益)も含めた適正な報酬を支払うのが当然でしょう。「中小企業の経営に配慮すべき」という声もありますが、順序を間違えた議論ではないかと思います。

厚生労働省年金部会の委員も務める出口治明・立命館アジア太平洋大学学長は、こう言います。

「中小企業にも適用拡大がなされて、すべての中小企業が社会保険料を支払うようになったら、経営者の選択肢は2つです。保険料を払えずにつぶれるか、経営を必死に頑張って保険料を支払うかです。結果的に生産性が上がって、改善意欲があるところだけが残ることになります」(社会保険研究所『年金時代』2020年2月25日掲載)

私もこの考えには強く同意します。私自身もごく小さな会社を経営していますが、社会保険というのは従業員が病気になったり、年をとって働けなくなったりしたときに、生活していけるように保障してあげるものです。それを支払うのを忌避するというのであれば、経営者としての資格はないといってもよいでしょう。

「働き方」の違いだけで処遇を変えてはいけない

厚生労働省の試算によれば、短時間で働く被保険者1人当たりについて企業が追加的に保険料を負担する金額は平均でおよそ月額2万円だということです。コロナ禍で業種によっては企業経営が直撃を受けている時期に、社員1人当たり2万円といえども苦しい、というのはわかります。

しかし、過去にもオイルショックや総量規制によるバブル崩壊、リーマンショックのような大きな経済変動がありました。これから先も起こりうることです。経営者としては、過剰な福利厚生を提供する必要はないかもしれませんが、少なくとも社会全体の方向として、社会保険適用拡大にそれなりに対応し、備えておくべきでしょう。

雇用者のうち4割近くが非正規社員であると述べましたが、非正規社員が多いということ自体は問題ではないと思います。そのような働き方もあってよいし、それは単にライフスタイルの問題です。

もっと大事なことは、そういった多様な働き方によって処遇が不当に扱われないようにするということです。ややもすれば賃金だけに目がいきがちではありますが、目先の給与水準だけではなく、働く人に関わる社会保険のあり方こそ、しっかりした議論が必要です。そういう意味では適用拡大こそは「働き方改革」にとって重要なテーマであり、成長戦略であると言い換えてもよいのではないでしょうか。

大江 英樹 経済コラムニスト、オフィス・リベルタス代表

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おおえ ひでき / Hideki Oe

大手証券会社で25年間にわたって個人の資産運用業務に従事。確定拠出年金ビジネスに携わってきた業界の草分け的存在。日本での導入第1号であるすかいらーくや、トヨタ自動車などの導入にあたりコンサルティングを担当。2003年から大手証券グループの確定拠出年金部長などを務める。独立後は「サラリーマンが退職後、幸せな生活を送れるよう支援する」という信念のもと、経済やおカネの知識を伝える活動を行う。CFP、日本証券アナリスト協会検定会員。主な著書に『自分で年金をつくる最高の方法』(日本地域社会研究所)、『知らないと損する 経済とおかねの超基本1年生』(東洋経済新報社)などがある。

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