つまり、アメリカ経済が、歴史的な落ち込みとなった4月の最悪期から、5月に回復に転じたことが雇用統計で示されたのである。一方、5月の雇用回復が、アメリカ経済のV字軌道での再開を意味するとは言い難い。5月に雇用が大きく増えたといっても、3、4月の2カ月間で経済封鎖によって2200万人もの雇用が失われ、経済再開の初月でその10%強が5月に戻っただけである。
先に述べたが、株式市場は雇用統計のビッグサプライズで大幅高となったが、サプライズの主たる要因は、上述したテクニカルな要因であり、多くの市場参加者が認識していた5月の経済再開が雇用統計で示されだけである。株式市場の大きな反応は、今後の経済活動や企業業績がV字軌道で回復していく期待が、より強まったことを意味するだろう。
経済活動再開・再雇用の勢いが減速する懸念
今後、アメリカ経済はスムーズに回復するのか。6月以降も雇用は増えるとみられるが、5月と同様の大幅な伸びとなる可能性は低いとみている。Google社の移動指数は5月後半から改善が止まっており、経済活動再開・再雇用の勢いは6月にかけて減速している可能性を示している。
また、経済封鎖で一度失われた経済活動や雇用が戻るには、かなりの時間がかかると筆者は依然予想している。失業率は改善したが、5月に13.3%と高水準にある。そして、解雇された失業者のうち7割以上が一時的な解雇と認識しているが、外食など労働集約的なセクターではソーシャルディスタンスが強く求められるコロナ後の世界において雇用回復は難しいだろう。今後、産業・企業間の労働者のシフトが起きる中で、経済全体での雇用創出はかなり鈍くなると予想する。
雇用統計のサプライズがあったが、筆者のアメリカ経済に対する見方はほとんど変わらない。4~6月にGDPは10%前後縮小しているとみられ、雇用統計が示したように5月から成長率はプラスに転じたが回復ペースは緩やかに止まるだろう。2020年のアメリカの経済成長率はマイナス5.5%と、リーマンショック後の2009年の経済の落ち込みを大きく上回る戦後最大のマイナス成長を引き続き予想している。
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