中国の電子商取引(EC)業界で今最も大きな話題と言えば「ライブコマース」(生中継のネット動画による実演販売)だ。EC首位の阿里巴巴(アリババ)や同2位の京東(JDドットコム)などがライブコマースの拡大を競うなか、リアルの販売網を強みにしてきた企業は変革を迫られている。
6月1日、大手家電メーカーの格力電器(グリー)の本社ビル1階ロビーは臨時の生中継スタジオに改装された。同社董事長(会長に相当)の董明珠氏が経営トップ直々の実演販売を行うためだ。ビルの外には2台の中継車が陣取り、プロの放送技術者など100人を超えるスタッフが董氏をサポートした(訳注:董氏は現場の営業員から叩き上げた中国を代表する女性経営者の1人。テレビ出演なども多く消費者の間で知名度が高い)。
この生中継イベントを董氏は極めて重視していた。董氏は過去にも何度かライブコマースを行ったが、今回は初めて中国各地に約3万店ある格力の専売店と共同で実施した「ニュー・リテール」の実験だったからだ。その結果は上々だった。格力によれば、午前10時から深夜12時まで断続的に展開したライブコマースの売り上げは65億4000万元(約988億円)に達した。
専売店の利益とネット推進を両立できるか
董氏は2018年末、格力のネット販売サイトに自らの名前を冠した直営店「董明珠の店」を開設。2019年後半からは各地の専売店に対して董明珠の店の支店を開くよう促してきた。各支店には専用の番号とQRコードが付与され、専売店の従業員がSNS(社交サイト)などを通じて顧客にプロモーションを展開する。顧客のトラフィックを董明珠の店に誘導し、販売が成立すれば売り上げと利益はその専売店の実績にカウントされる。
格力の主力製品は市場シェア首位のエアコンであり、高い取り付け技術を有する専売店の全国ネットワークを築いたことが最大の強みだった。しかし昨年から競合他社がエアコンのネット販売を大幅に伸ばし始め、董氏は既存の専売店網を守りつつネット販売でも遅れを取らない両立策を模索していた。6月1日のライブコマースの成功は、その最初の成果と言える。
しかし一部の専売店からは、「ライブコマースは売り値が安く、自分たちの利益が減ってしまう」という不満の声も漏れる。一方、あるエアコン業界の関係者は、ネット販売を推進すれば「格力の専売店は3万店もいらず、一部は淘汰が避けられない」と指摘する。リアルとネットの利害のバランスを今後どう取っていくのか、董氏の悩みは尽きない。
(財新記者:彭岩鋒)
※原文の配信は6月2日
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