「何をしても噂になる」田舎を逃れた男性の絶望

父と祖父が「地元の校長」というしがらみ

想像するだけで息苦しい、狭い世界です。祐樹さんが子どものころ、親や周囲から感じてきたプレッシャーは、並大抵のものではなかったようです。

一流大学合格より、大検に受かったときがうれしかった

高校を退学してからは家にこもり、「好きでもないのにゲーム」をしたり、テレビ番組の録画を見たり。その頃に起きたのが、宮崎勤の連続幼女誘拐殺人事件です。ニュースでは大量のビデオテープが並んだ犯人の自室が繰り返し映し出され、祐樹さんは「このままだと、ああなってしまうのでは」と危機感を募らせます。そこで、東京に住む姉の勧めに従い、家を出ることにしました。

東京へ行くと、姉が手配してくれた部屋に住みつつアルバイトを始めましたが、それまでずっと部屋にこもっていたこともあり、なかなかなじめません。だんだんと精神状態が悪くなり、心療内科に通うようになります。

そんな生活のなかで、とてもうれしいことがありました。19歳のとき、大検(現・高等学校卒業程度認定試験)に合格したのです。

「大検に合格するまでは、学歴としては中卒です。身動きがとれない状態だったのが、『大学を受けることができる』というところまで来られたので。やっと、扉が開いたような感じです。あれはたぶん、いちばんの親孝行だったと思います。親も本当に喜んでくれて」

当時を振り返る祐樹さんは、本当にうれしそうでした。ただ、それから3年後、彼は誰もが知る一流大学に合格しています。はた目には「大検より、そっちのほうがうれしくないかな?」と思ってしまうのですが、そうではなかったといいます。

「本当は東大に行きたかったので。高校を中退した人には多いと思うんですけれど、コンプレックスから『みんなの頭を超えてやる』という気持ちで東大を目指すんです。いま思えば、最初から身の丈に合ったところを受けていればよかったんですけれど。それでちょっともたついて、22歳のときにその大学に入りました」

大学も最初はなかなか通えなかったそうですが、しばらくしてまた、あるきっかけが訪れました。父親に病気が見つかり「5年後の生存率が50%」と告げられたのです。

「それでスイッチが入ったと思うんです。大検に合格した後、N先生というすごくいい精神科の先生に出会って、ずっと通っていたんですけれど。父の病気がわかったとき、N先生に『電車に飛び込みそうになった、もう外に出ているだけでつらい』と訴えたら、『わかった』と言って、初めて薬(抗不安薬)を出してくれて。

それを1日3回飲んでいたら、本当にもう、数日で治っちゃったんです。『やったー』と思って、すぐ近所のコンビニでアルバイトを始めて、それからは大学にも行けるようになりました」

こんなにもよく薬が効く人がいるとは。「薬で楽になった」とか「薬が合わなかった」という話はよく聞きますが、「数日で治っちゃった」という話はそうそう聞きません。薬が合っていたこともあるでしょうが、ちょうど浮上するタイミングだったのでしょうか。

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