「大変な危機と受け止めている」――。スズキの鈴木修会長は5月26日に行われた2020年3月期決算説明会で現状をそう表現した。
2020年3月期(2019年度)の連結業績は、営業利益が34%減の2151億円と厳しい結果になった。さらに新型コロナウイルスの影響を本格的に被る今年度の業績予想は示さず、予定していた中期経営計画の発表も見送った。
昨年度はインドでの販売不振に苦しんだ。インドの新車市場は1国としてはアメリカ、中国、日本に次ぐ世界第4位で、2018年には過去最高となる年間339万台(乗用車のみで商用車含まず)を記録。その巨大市場でスズキのシェアは実に5割近い。国内販売が頭打ちとなる中で、インド事業が近年の業績拡大の牽引役だった。
だが、2019年初頭から現地の新車販売は減速。同年5月の総選挙後には回復に向かうと思われたが、ノンバンクの貸し渋りや環境規制の変更などによって、需要がさらに冷え込んだ。結果、スズキの昨年度のインドでの新車販売台数は143.6万台と前期比で18%も減り、連結業績の大幅な悪化につながった。
4月のインドの販売実績は0台
そこに追い討ちとなったのが新型コロナの影響だ。政府からの活動自粛要請を受け、インドで生産販売を担う子会社のマルチスズキ・インディアが3月下旬に3拠点ある工場の操業やオフィス業務を停止。グジャラートにある生産子会社、スズキ・モーター・グジャラート社(SMG)の工場も稼働を停止した。すべての販売店も営業を停止したため、4月の販売実績は0台となった。
インド政府はロックダウン(都市封鎖)を継続しながらも、経済活動再開にむけて徐々に措置を緩和。スズキも5月中旬以降、工場の操業を順次再開している。インド全土に約3000店ある販売店も3分の2程度が営業再開に漕ぎ着けた。とはいえ、5月の現地販売台数はせいぜい1万台程度にとどまる見通しだ。
鈴木修会長は電話会議で行った決算会見の席上、「6月にはフル生産に入りたい」と期待を込めたが、現実は厳しい。インド経済に詳しい日本総合研究所調査部の熊谷章太郎氏は「インドのV字回復は難しい」と指摘する。民間のシンクタンクが集計している現地の失業率は4月の8%から20%程度にまで悪化しているうえ、政府による経済対策も自動車関係の支援策は薄いからだ。
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