佐藤優「抑えきれない怒りに向き合う唯一の策」 怒りが怒り呼ぶ負の連鎖から抜け出すには?

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自分の置かれている状況を理解したうえで、次に私を担当する検事がどのような人物かを、少ない情報の中から浮かび上がらせるよう努めました。すると担当検事は人格円満で人望も厚いこと。ただし今回の捜査で私からしかるべき証言を得て、しかるべき調書を作成しなければならない立場であることが理解できました。

1日のうちで彼が上司に成果を報告しなければならない時間帯がいつであり、1週間のうちで会議で成果を報告しなければならない日がいつかまでインプットしました。面と向かっている検事は鬼でも何でもない。彼もまた組織の中で自分の役割をこなさなければならず、追いつめられている立場なのです。

それがわかると、ずいぶん心に余裕ができました。彼は私に黙秘され、調書を書けなくなるのがいちばん怖いことであり、避けたいことなのです。

私は彼との間に1種のルールを作り上げることにしました。すなわち少しでも高圧的、暴力的に向かってきたら一切黙秘する。そうでなければ知っていることは知っている範囲で真実だけをしっかり供述する。自分の置かれている状況を分析し、相手が何を求め、何を避けようとしているかがわかれば、心乱すことなく対応ができます。

上司も追いつめられている

このことは、おそらく普通のビジネスの現場でも同じではないでしょうか。やたらとプレッシャーをかけてくる上司がいたとして、上司を恐れて避けているだけでは恐怖心が募るばかりです。

なぜそのような行動に出るのか? その上の部長や役員にきつく当たられているのかもしれません。もともとコンプレックスが強く、弱い自分を隠すために部下にきつく当たっているのかもしれません。

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理由と背景がわかれば、おそらくそれほど恐れることはなくなります。上からきつく言われているとしたらどんなことなのか? それを一緒になって解決する方法がないのか上司に提案してみる。自分の味方になってくれると知ったら、上司の態度は急変するかもしれません。

コンプレックスのある上司であれば、あえて上司の承認欲求や自己肯定感を高めるような言葉をかけてみる。「○○課長のいうことを実践したら、すごく成果が上がりましたよ」などと、上司を持ち上げてみるのです。おべっかを使うと考えるのではなく、相手の立場と状況に立って、俯瞰してものを見るということです。

すると自分が上司に追いつめられているのではなく、相手も何者かから追いつめられていることがわかる。それを理解しているだけで、こちらの心に大きな余裕ができるはずです。

佐藤 優 作家・元外務省主任分析官

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さとう まさる / Masaru Sato

1960年、東京都生まれ。同志社大学大学院神学研究科修了。

2005年に発表した『国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて』(新潮社)で第59回毎日出版文化賞特別賞受賞。2006年に『自壊する帝国』(新潮社)で第5回新潮ドキュメント賞、第38回大宅壮一ノンフィクション賞受賞。『読書の技法』(東洋経済新報社)、『獄中記』(岩波現代文庫)、『人に強くなる極意』(青春新書インテリジェンス)、『いま生きる「資本論」』(新潮社)、『宗教改革の物語』(角川書店)など多数の著書がある。

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