新型コロナウイルスの抗体検査が関心を集めている。5月15日に厚生労働省が発表した「抗体検査キットの性能評価」の結果がさまざまなメディアで大きく報じられたため、記憶している人も多いだろう。
この調査は、厚労省の依頼を受け、日本赤十字社などが保存する血液検体を用いて行ったものだ。5社が発売する検査キットを用いて、2020年4月に東京都内、東北6県で採取したそれぞれ500検体を調べた。さらに、新型コロナウイルスの感染の可能性がないコントロールとしては、2019年1~3月に関東・甲信越で採取した500検体をチェックした。結果を下図に示す。これは厚労省のホームページから借用した。
(外部配信先では図や表を全部閲覧できない場合があります。その際は東洋経済オンライン内でお読みください)
厚労省は記者会見で、都内500人分のうち3人(0.6%)、東北6県500人分のうち2人(0.4%)が陽性で、少数だが2019年の検体からも陽性が出たと説明し、検査の信頼性に問題があると結論づけた。
抗体検査キットの信頼性は低い?
翌日の朝日新聞は「キットの精度に問題があるうえ、調査対象が少ないため、厚労省は専門家の意見も踏まえ、結果に対する評価は見送った」と報じている。この調査により「抗体検査キットの信頼性は低い」というのが、コンセンサスになったようで、5月23日の毎日新聞社説では、「検査手法によって精度にばらつきがあるため、データ全体の信頼性が高いとは言えない」と記している。
はたして、本当にそう言い切ってよいのだろうか。
私は研究班の調査は、検査キットの性能評価の体をなしていないと考えている。臨床検査を評価する場合、指標は感度と特異度だ。
この場合、感度とは、感染した人から採取した検体のうち、どの程度が陽性になるかだ。一方、特異度とは、感染していない人のうち、どの程度が陰性になるかだ。感度がよければ、見落としがなく、特異度が良ければ感染していない人を誤判定しないことになる。
では、今回の検討はどうだったろうか。特記すべきは、感度を検討していないことだ。感染の有無が判明していない日赤の保存検体をいかに多数測定しようが、感度は評価できない。感度なしで検査の性能は評価できない。なぜ、基本を逸脱したのか理解に苦しむ。
一方、特異度について、ある程度まとまったデータがでている。5社のうち2社のキットを用いて、2019年1~3月の500検体をチェックしているからだ。擬陽性はそれぞれ1、2サンプルだった。特異度は99.8%、99.6%ということになる。これは十分に臨床応用できるレベルだ。
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