私が勤務するナビタスクリニックでは、202人の受診者を検査し、12人が陽性だった。陽性率は5.9%だ。
この数字は、今回の結果とはまったく違う。読者の多くは「間違って陽性になったのだろう」とお考えだろう。ところが、それは違うようだ。なぜなら、今回の厚労省の調査で、擬陽性は0.2~0.4%であることがわかったからだ。202サンプルの場合、偽陽性は多くても1サンプル。大部分は新型コロナに感染していたと考えていい。
ナビタスクリニックはクラボウが販売する抗体キットを用いている。中国のメーカーが作製したものだ。販売元のクラボウは感度76%、特異度は100%としている。厚労省が検査した2社にクラボウ製が入っているかはわからないが、今回の2社の報告は、クラボウ社の報告とも一致する。クラボウ製のキットは中国で標準的抗体検査と見なされており、特異度については信頼してよさそうだ。
検査の信頼性は検査対象に左右
ただ、検査の信頼性は、検査対象に左右される。日赤のサンプルの陽性率は、5社それぞれ2.2%、2.2%、0.4%、0%、 0.4%だ。厚労省は500サンプルを検査し、検査キットのタイプを問わず合計で3サンプルが陽性になったため、陽性率0.6%という結果を出したが、これは適切ではない。異なる検査キットを用いているのだから、別々に結果を出さなければならない。ここでも厚労省の評価には疑念が多いが、本稿では、この問題には触れない。
検査の信頼性に戻ろう。先ほど、ナビタスクリニックで使用する場合、抗体検査キットは信頼できるといったが、この理屈は日赤には、そのままあてはまらない。それは、日赤の保存検体での陽性率はナビタスクリニックほど高くないからだ。日赤では500サンプル測定し、3サンプルが陽性となった。擬陽性が1~2サンプルも出るようなら、陽性と判断した人のうち、25%あるいは40%が擬陽性ということになる。厚労省が「検査の信頼度に問題がある」と結論したことは、この点では間違っていない。
理想は感度も特異度も高い検査だ。ただ、それは難しい。感度を上げる、つまり見落としを減らそうとすると擬陽性が多くなるのは避けられないし、逆に誤診を減らそうとすると、見落としが増え、感度が下がるからだ。このように検査の感度と特異度はトレードオフの関係にあり、臨床現場ではバランスを取ることが求められる。検査の有用性は、どのような集団を対象として、何を目的に検査するのかで変わってくる。厚労省の発表の問題は、まさにここにある。
これまでのデータを見る限り、日本で使用されている抗体検査キットは、特異度はまずまずだが、感度については十分な情報がないと言えそうだ。検査対象を選択すれば、擬陽性はあまり問題とならないが、どの程度を見落としているかはわからない。
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