つまり、抗体保有率は受診者が属するコミュニティーによって大きく異なる。現在、日本各地で抗体検査が実施されている。知人の会社経営者は「うちの社員を調べましたが、抗体陽性率は1%以下でした」という。彼が経営する会社は、早くから在宅勤務を導入している。
ところが、「夜の街で働く人を調べたら、陽性率は20%だった」、「地方の医療機関・介護施設の従事者を調べたら5%を超えていた」などの声も聞こえてくる。本稿で、これ以上詳しくは解説できないが、このようなデータはやがて論文などの形で発表されるのでお待ちいただきたい。
このように考えると、新型コロナウイルスの感染予防を議論する際、日本全体ではなく、コミュニティーの特性に応じた個別化の議論が必要であることがわかる。特に、高齢者や病人を含むコミュニティーをどう守るかが重要だ。アメリカ・ニューヨークの研究では、感染者はブロンクスの低所得層で高く、マンハッタンで低いことがわかっている。日本ではあまり議論されてないが、ホームレス対策も重要だ。
彼らへの対応を議論する際に忘れてならないのは、その活動範囲は狭く、外部コミュニティとの接点も限られていることだ。本来、感染リスクは低い。ところが、病院や介護施設であれ、日雇い労働者向けの宿泊所が集まるドヤ街であれ、いったん誰かが感染すると、一気に周囲に拡大する。永寿総合病院や中野江古田病院の院内感染、ブロンクスでの流行などは、こうやって起こった。
キャリアーはスーパースプレッダーとは限らない
彼らを感染から守るには、彼らに「接触8割減」と求めるだけでは駄目だ。いったん外部から感染が入れば、コントロールするのは至難の業だからだ。同時に新型コロナウイルスを持ち込む「キャリアー」を同定し、彼らとハイリスク集団との接触をできるだけ減らすことだ。厚労省のクラスター研究班は「スーパースプレッダー」の存在を重視したが、「キャリアー」は必ずしも「スーパースプレッダー」とは限らない。
第1波では、アルバイトで勤務する医師が病院間で「キャリアー」の役割を果たしたとされている。いったん病院内に入ったウイルスを蔓延させたのは、このような「キャリアー医師」とは限らない。医師、看護師、事務員で、複数の部門にまたがって仕事をする人だろう。後者は「スーパースプレッダー」だが、彼らがそうなるのは偶然の要素が多い。
一方で、複数の病院で勤務する非常勤医師は構造的に「キャリアー」になりやすい。時に彼らは無症状で周囲を感染させる。感染拡大を防ぐには、このような「キャリアー」についての認識を深める必要がある。現時点では、どのような立場の人が「キャリアー」の役割を果たしたか明らかではない。それを調査するのが抗体検査の目的の1つだ。
厚労省は東京・大阪・宮城で1万人を対象とした抗体検査を計画している。受診者はランダムサンプリングするらしい。このような調査は日本の罹患率を推計するという公衆衛生学的には有用だろう。
ただ、それだけで終わってはならない。異なるコミュニティーの感染リスクを推計し、「キャリアー」に注目して、感染拡大のネットワークを断ち切ることを念頭において研究を進めてほしい。
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