老舗タクシー、コロナで売り上げ7割減の衝撃度 大和自動車交通の前島社長が語る「業界の今」

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――業界では従業員解雇の動きも出始めています。

他社のことをコメントする立場にはないが、うちは解雇しない。少なくとも、現時点では選択肢にない。解雇は雇用責任の放棄だ。解雇しなくても、出勤日数などは調整しているし、乗務員に支払う給与は歩合の比率が大きい。逆に言うと、乗務員は雇用が維持されても出勤日数が減れば収入が減る。急激に収入が減ると生活が大変なので、希望者には一定額を会社から貸し付けることにした。借り入れた35億円などが原資になる。

大変な経営環境だが、将来のために人の採用はちゃんとやっていく。当社はこれまで乗務員が十分に確保できず、車両の稼働率が下がっていた。こういう経済状況で求人は減るだろうから、いい人材を採りやすくなる。4大卒の学生を含めて、大和の社風に合う人がいれば積極的に採用したい。

できることは何でもやる

――そもそも、タクシー業界は運賃が国交省に決められていて、大手でも収益性が低いです。上場会社の御社にしても、2019年3月期の売上高169億円に対して営業利益は3.7億円にすぎません(2020年3月期決算は6月10日発表予定)。

公定運賃で認められている利益率はおよそ1.5%程度だ。だから赤字のタクシー会社も多い。これを稼げる構造に変えていく必要がある。ソニーや大手タクシー会社で協力している配車アプリ「S.RIDE」や、自社独自のタクシー配車アプリを活用することで、お客さんに利用してもらう機会を広げていく。

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業界では今年、乗り合い(見知らぬ人が一緒に乗車して料金を分担する制度)が解禁された。運べる人数が増えるわけで、運賃収入を増やす1つの手段になる。昨年解禁された事前確定運賃(タクシー乗車前に運賃が決まる制度)なども取り入れ、利便性も向上させる。

ほかの手段としては、介護向けや妊婦さん、教育向けなどのサービスや物の運送などもある。いまコロナを受けて9月末までタクシーで物も運べるように規制が緩和されたので、当社もフードデリバリーサービスを始めた。消費者の方に利便性を認めていただいて、その後も継続されるように努力していく。とにかくできることは何でもやって、この未曾有の危機の乗り越える覚悟だ

中野 大樹 東洋経済 記者

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なかの たいじゅ / Taiju Nakano

大阪府出身。早稲田大学法学部卒。副専攻として同大学でジャーナリズムを修了。学生時代リユース業界専門新聞の「リサイクル通信」・地域メディアの「高田馬場新聞」で、リユース業界や地域の居酒屋を取材。無人島研究会に所属していた。趣味は飲み歩きと読書、アウトドア、離島。コンビニ業界を担当。

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