遠慮しない「フェミニズム誌」熱く求められる訳 雑誌「エトセトラ」が切り開いた新ジャンル

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フェミニズム関係の書籍も数多く出版されているが、日の目を浴びた本は少ない。書店に置くべき棚が用意されていないこともあるし、目立たないまま良書が埋もれ絶版になってしまうこともある。前述したエトセトラブックスで7月に出す単行本2冊は復刊である。秋には書店員の仲間などと、フェミニズム専門書店を開く予定だと松尾氏はいう。

女性たちのモヤモヤとした怒りが、長い間心の中に収められてきたのは、幼い頃からずっと、差別だと思わないように、あるいは思っても沈黙するように、周りからしつけられてきたからだ。

そのうえ、社会は男性優位に作られている。そうした社会の問題に気づかせるフェミニズムを扱う雑誌はこれまでほとんどない。また、ジェンダーがテーマの書籍すら、フェミニズム色をできるだけ出さないように出版社が求める傾向が今もある。テレビに至っては、男性目線に覆われてきたと言っても過言ではない。

「らしさ」に押し込まれることへの抵抗

フェミニズムを訴えジェンダー問題について考えたくても、世の中に伝えることすらできない時代が長く続いたのは、メディア業界も男性中心社会で、管理職の大半を男性が占めてきたからだ。

女性たち自身も、内面まで支配する差別により、フェミニズムに関心を持つことをためらってきた。立場が弱い女性ほど、身を守ろうとフェミニズムを嫌がる。差別に順応せざるをえないほど、強く抑圧されている女性が多いのだ。出版社がジェンダーにかかわるテーマを嫌がるのは、このように男性に関心がなく、女性にその問題に関わりたがらない傾向が強く、「売れない」時代が長かったからでもある。

しかしここ数年、風向きは変わってきた。社会が変革期にあり、既存の枠組みが揺らいでいるからだ。女性も男性も昭和的な「らしさ」に押し込めようとする現在のシステムでは、経済成長が難しいことが明らかになってきた。女性に活躍して稼いでもらうには、長時間労働の慣行を見直すなど社会のシステムを変えていかなければならない。

そうした社会の軟化が、女性たちに勇気を与えている。男性にも、既存のシステムが生きづらいことを実感し、女性たちに味方したり自ら声を上げる人が増えてきた。新型コロナウイルスに脅かされる今は、従来からの延長線上で、変えようとしてこなかった社会システムの問題も明らかになってきている。

何が起こっているのか知ること、何が問題なのかを理解することは大切だ。今まで気づかれていなかった問題、公にされてこなかった抑圧や差別の問題を明らかにするのが、フェミニズムである。手がかりを与えてくれる方法の1つが、書籍である。フェミニズム・ムーブメントを一過性に終わらせず、社会を変えていく恒常的なものとして定着させる一助に、エトセトラブックスはなるのかもしれない。

阿古 真理 作家・生活史研究家

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あこ まり / Mari Aco

1968年兵庫県生まれ。神戸女学院大学文学部卒業。女性の生き方や家族、食、暮らしをテーマに、ルポを執筆。著書に『『平成・令和 食ブーム総ざらい』(集英社インターナショナル)』『日本外食全史』(亜紀書房)『料理に対する「ねばならない」を捨てたら、うつの自分を受け入れられた』(幻冬舎)など。

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