歴史が示唆する新型コロナの意外な「終わり方」 過去のパンデミックはどう終息したのか
マリーは次のように述べる。「もし、私たちが恐怖や無知と積極的に、かつ慎重に戦おうとしなければ、その恐怖によって、弱い立場にいる人をひどく傷つける可能性がある。たとえ感染者が1人も出なかった場所でも、そんな状況が起こりうる。そして、恐怖の蔓延は、人種や階級や言語などの問題によって複雑化すると、さらに悪い結果をもたらす」。
黒死病――2000年間で3度の大流行
過去2000年の間に、何度かペストが流行し、何百万人もが死亡して、歴史の流れが変わった。ペストが流行する度に、恐怖が増幅されていった。ペストは「黒死病」としても知られている。
ペストは、ネズミに寄生したノミが持つ「ペスト菌」に感染することで引き起こされる。しかし、感染した人の飛沫を通じてほかの人にもうつるため、単にネズミを駆除するだけでは病気を撲滅することはできない。
ペストがどう終息したのかは不透明
ジョンズ・ホプキンス大学の歴史学者、マリー・フィセルによると、歴史学的にはペストの大流行は3回起こったという。6世紀の「ユスティニアヌスのペスト」、14世紀の「中世の大流行」、そして19世紀末から20世紀はじめにかけてのパンデミックだ。
中世の大流行は1331年に中国で始まった。当時は内戦も激しく、戦争とペストで中国の全人口の半分が死亡した。ペストは中国から貿易ルートを伝って、ヨーロッパ、北アメリカ、中東に広がった。1347年から1351年までの間に、少なくともヨーロッパの人口の3分の1がペストで亡くなり、イタリアのシエナでは人口の半数が死亡した。
この時のパンデミックは終わったが、ペストの流行は繰り返された。なかでも、1855年に中国で始まって世界中に広がった流行は大きなもので、インドだけで1200万人以上が死亡した。ボンベイ(現ムンバイ)の保健当局は、ペストを撲滅しようと、地域を丸ごと焼き払うことまでした。「それが効果をもたらしたのかは誰もわからない」と、イェール大学の歴史学者、フランク・スノーデンは言う。
ペストがどのようにして終息したのかは明らかではない。寒さのために病気を媒介するノミが死滅したと考える学者もいるが、それでも飛沫感染による感染経路は残るはずだとスノーデンは指摘する。