コロナ激震地ロシアでプーチンがはまった暗路

75年前の戦勝の記憶は国民の生活を救えない

まず、憲法改正だが、国民投票の延期の発表の中で、「私がこれ(憲法改正)をどれほど真剣に考えていることか」と述べている。それほど周到に用意してきたものであれば、国民投票を延期するのは難しい決定だったとも思えるが、上述のとおり、発表自体は事務的とも言える簡潔さだった。

コロナ騒動のあおりを受けて、延期せざるをえなくなったこと自体は無念だったが、感染を恐れる国民が投票に行かず、国民投票の投票率が低迷することは一層避けたい事態であったと思われる。

それはこの憲法改正の正当性を損なう事態である。ならば、コロナが収まるのを待って、改めて実施するほうがましだというわけだ。そう考えると、大事を取って投票を延期するのは、当然の判断だった。ちなみに、延期発表の3月25日時点での感染者数はまだ数百人規模にすぎなかった。

一方、5月9日の戦勝記念日の延期を発表した4月16日時点の感染者数は約2万8000人規模であり、しかも前日から3000人以上増加している。これほどの事態になるまで、プーチン大統領は軍事パレードの延期の発表に踏み切らなかった。どうしても戦勝記念日を祝いたかったのである。なぜ、ここまで戦勝記念日を重視するのだろうか。

今年の5月9日はどんな意味を持っていたのか

5月9日は、ロシアにとって第二次世界大戦におけるナチスドイツの降伏を記念した祝日であり、対独戦勝記念日だ。単に「勝利の日」とも呼ばれている。

クレムリンの隣の赤の広場で大々的に式典を実施し、モスクワ市内中心部で戦車や装甲車が行列となって進む軍事パレードが挙行される。最新兵器を含め、ロシア軍が誇る兵器の展覧会のような様相を呈する。

しかも、今年は戦後75周年ということで、世界各国の首脳が招待されており、もし、コロナがなかったならば、安倍晋三首相も出席したであろうし、ロシアにとって久々の国際的な晴れ舞台となったであろう。

久々というのは、2014年のクリミア「併合」以来、欧米との関係が悪化しており、国際舞台でロシアが脚光を浴びるようなイベントが皆無となっていたからだ。

そして、戦勝記念日の真の重要性は、ロシア国民向けの行事であり国内統合の要となる「儀式」であることだ。ロシアは第二次世界大戦で2700万人とも言われる史上最大の犠牲者を出している。小さな国であれば全滅してもおかしくない、とんでもない規模の犠牲だ。

ドイツ軍は、モスクワ近郊まで迫ってきており、ソ連軍は辛うじてモスクワを防衛したものの、首都を占領されかかった経緯もある。それにもかかわらず、ソ連赤軍は不屈の精神で史上有名なスターリングラードの戦いやクルスク戦車戦など重要な緒戦を制し、連合軍を勝利に導くのである。

少なくともロシアは、ドイツの降伏の一番の功労者は自分たちだとの強い自負を持っている。世界をファシズムの脅威から解放した正義の軍だというわけだ。

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