プーチン政権にとって問題なのは、こうした地方の小都市住民のほうが、政権支持層であり票田であるという実態である。モスクワなど大都市のリベラルな高学歴層は、もともと政権に批判的な傾向を有しているが、今回は、地方の穏健派にも不満が広がる可能性がある。
「レヴァダセンター」のグドコフ氏は、「ロシア人の我慢」は、あと2か月程度で限界に達するだろうとの見解を示している。今後、北オセチアでのような非公認の抗議デモが各地で発生する危険性もある。仮に、このような形で生活を脅かされた人々が抗議活動を行うことになる場合には、これまでのリベラルな学生を中心とする反政府デモとは性質がまったく異なり、プーチン政権を大きく揺さぶる可能性もある。
この危機をプーチン政権は乗り越えることができるか
プーチン政権は、国内での批判が高まってくると、責任を外的要因に転嫁することで乗り切ってきた。例えば、2014年のクリミア「併合」は欧米との関係を決定的に悪化させたが、支持率を強く押し上げる結果となった。ロシアは長く外敵に脅かされてきた歴史を持つがゆえに、「悪いやつらがわれわれロシア人をいじめている」とのストーリーが容易に受け入れられる傾向がある。
しかし、今回のコロナ禍は、ロシアだけでなく全世界を分け隔てなく平等に襲っている。アメリカでさえ最大の感染者と犠牲者を出しているから、そうした外敵によりロシアが攻撃されているという筋書きは通用しない。
以前の記事『ロシアでコロナ急増「異民族襲来」に例える危機』で紹介したが、4月9日の全国首長会議でプーチン大統領は、コロナ禍を異民族の襲来に例えた。しかし、生活の手立てを失いつつある国民が見ているのは、コロナという「異民族」ではなく、政府の支援策である。対策の不備が目立てば、延期となった憲法改正国民投票の結果にも影響を与えかねない。
こうした国内的背景に加え、欧州各国が段階的に制限措置を緩和し始めたことから、ロシア政府としても対策の成功をアピールする必要があると考え、5月11日に、制限措置の緩和に踏み切ったと考えられる。プーチン大統領は、医療体制の強化により感染者への対応は十分に可能としているが、今回の判断が吉と出るか凶と出るかで、今後の政権運営の明暗が分かれよう。
コロナ後のロシア国民は、「偉大なるロシア」という国家像を維持することで、引き続きプーチン大統領の下での安定を求めていくのか、それとも、プーチン後を見据えて新たな未来像、国家像を求めていくことになるのか。75年前の戦勝の記憶は、コロナ禍に揺らぐロシア国民の統合をとどめることができるだろうか。
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