コロナ激震地ロシアでプーチンがはまった暗路 75年前の戦勝の記憶は国民の生活を救えない

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今年の5月9日の戦勝記念日では軍事パレードや大規模な式典は実施されなかったが、プーチン大統領の演説や無名戦士の墓への献花など最小限の行事は実施された。その演説の中でプーチン大統領は、「ソ連軍人が祖国のみならず、欧州を解放し、世界を防衛した」と述べている。

また、ロシアにとって「『勝利の日』は最も重要で尊い祝日だ、その精神的、道徳的意味は偉大であり、神聖なものだ」としている。プーチン大統領は、第二次世界大戦を一つの歴史的な出来事として見ているのではなく、ロシア国家にとっての神聖なる出来事として受け止めているのだ。

さらにプーチン大統領は、祖国を守ったロシア国民の先祖たちの自己犠牲の精神に触れ、異なる民族出身者が前線や銃後で支えあったとして、多民族からなるロシア国家の精神的な一体感を喚起している。

プーチン大統領の意図は明白である。ロシアは今一つにならなければならないと訴えているのである。これがプーチン大統領の歴史観であり国家観だ。ここに、5月9日がロシアの国家統合の要だという理由がある。

5月9日の演説では直接コロナに言及することはなかったが、「ロシア国民が一体となれば、決して負けることはない」と締めくくっている。「世界をファシズムの惨禍から救った偉大なる国」は、コロナにも打ち勝つことができるとのメッセージと聞くこともできる。

世論からは批判の声も

コロナ対策に関しては、ロシアの世論は、プーチン政権の思惑とは一致していない。4月20日、ロシア国内の北オセチアで外出制限に関し、1000人規模の抗議デモが起きている。

ロシアの主要な世論調査機関である「レヴァダセンター」によれば、政権による外出制限をはじめとする施策に対する国民の評価は半分に割れている。46パーセントは政府の対策を評価、48パーセントは不満を表明している。

不満を表明している層もさらに2つの傾向に割れている。一方は都会の若者や高学歴層で、制限措置が過剰だと感じており、もう一方は貧困層、低学歴層、地方の小都市住民で、経済的支援措置が不十分だと感じているという。北オセチアで起きた抗議デモはまさに後者の代表である。

ちなみに北オセチアは、チェチェンの近隣地域であり、テロリストの土壌にもなっている地域である。コロナ拡大前から外務省の渡航中止勧告の対象地域だ。

さらに、ロシアには経済統計に表れない非公式経済、非公式雇用とされる中小企業や個人事業者が2500万人もいると言われており、こうした人々はコロナの影響がより深刻である。国の支援策の対象ともなりにくいであろう。

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