「コロナをきっかけにオフィスが再定義される。今後のオフィスは必要な時に必要なだけ利用されるフレキシブルな契約が増えていく」。貸会議室大手TKPの河野貴輝社長は、4月に開催された決算説明会で力説した。
同社が昨年買収した貸オフィス大手「リージャス」の元には、新型コロナウイルスの感染拡大を警戒し、オフィス拠点を分散させたい企業からの問い合わせが相次ぐ。宴会や宿泊といった付帯サービス需要が霧散した貸会議室とは対照的に、リージャスの業績はコロナ禍が本格化した3月でも堅調に推移しているという。この3月からは貸会議室もオフィス仕様に転換し、BCP対策や自宅以外のリモートワーク拠点としての活用を促す。
遊休スペースのマッチングサービスを展開するスペースマーケットも、サテライトオフィス需要を掘り起こす。遊休オフィスの時間貸しや月貸しを支援するほか、4月にはオフィスの「間借り」サービスも開始した。文字通りオフィスの一部を借り、同じフロアでほかの企業と同居する。「転貸には難色を示すが、同居なら構わないというビルオーナーもいる」(同社)。
港区南青山にオフィスを構えるある企業は、リモートワークの導入に伴い出社する人員が減り、オフィスの一部を持て余すようになったという。スペースマーケットを通じて遊休スペースを外部企業に貸し出し、少しでも収益に貢献させる。ビジネスの内容によっては、入居企業同士の協業の余地もあるという。
問われるオフィスの存在意義
期間や面積は固定で、契約満了時には更新か退去の二択。成長の速いスタートアップにとって、これまでのオフィス契約はいささか硬直的に映った。そんな需要をすくい取ったのが、シェアオフィスやコワーキングスペースだった。コロナ禍を契機に、借りる面積や初期投資を抑えられるオフィス需要が頭をもたげている。
では、1つのフロアやビルに大人数が集う旧来型のオフィスは姿を消していくのか。ニッセイ基礎研究所の百嶋徹上席研究員は、「イノベーションを起こすにはフェイストゥフェイスのコミュニケーションが欠かせず、バーチャル空間でのやり取りだけでは限界がある。GAFAといった巨大ハイテク企業でも大規模な本社ビルを構え、イノベーションの拠点と位置付けている」と指摘する。
ヒトカラメディアの田久保氏も、「経営者からは『在宅勤務では従業員のモチベーション維持やメンタルケアといったマネジメントが難しい』という声を聞く」と話す。不動産大手の森ビルが2019年に行った調査によれば、オフィス環境作りの課題について、回答企業の41%が「社内のコミュニケーションやコラボレーションの強化」を挙げた。
コロナ禍によって余儀なくされた在宅勤務は、オフィスでなくてもできる業務とオフィスでしかできない業務を浮き彫りにした。何のためにオフィスを構えるのか、それにはどの程度の面積やビルスペックが必要か、オフィスのあり方を再考する時期に差し掛かっている。
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