「家にいよう」でGDPの単純比較ができない理由 経済対策の考え方もこれまでとは異なるべき

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内閣府経済社会総合研究所が公表している最も新しい試算によれば、炊事、洗濯などの家事8種類とボランティア活動1種類の無償労働の価値の合計は、2016年に101.4兆~143.1兆円で、名目GDP比は18.8~26.6%にも達する。内閣府の試算を見ると、家事の外部化が進んでいるといわれているにもかかわらず、無償労働の名目GDP比は上昇傾向にある。

推計方法によって原因は異なるが、男女間の賃金格差の縮小や財価格に対してサービス価格が上昇していることなどが要因として考えられる。
ボランティア活動の貨幣評価額のGDP比は1%程度にすぎず、推計されている無償労働のほとんどは家事労働の価値だ。

3つの推計方法のいずれでも、家事労働の中では炊事の割合が3割強で最も大きく、炊事の食材が大きなウエイトを占めていると思われる買い物も含めると、家事の半分以上の価値は食事の準備であるとみられる。

従来は会社や学校で外食や給食という形だった昼食の多くが、新型コロナウイルスの感染拡大防止のために、家庭で調理されるようになっているとすれば、今は無償労働が大幅に増えているはずだ。無償労働による生産も考慮すれば、消費者の生活水準はGDPの落ち込みほど悪化しているわけではない。

発展途上国と先進国のGDPも単純比較できない

話は少しそれるが、発展途上国の実際の生活水準は、1人当たりGDPの数字から受けるイメージよりも、はるかに高いと考えられる。GDPを使って国際比較をすることは、工業化が進んだわれわれの生活を物差しにして測っていることになる。途上国では貨幣経済に組み込まれていない経済活動が大きいために、GDPは人々の生活水準を著しく過小に評価している可能性が高い。

国連のデータによれば、2018年のソマリアの1人当たりGDPは98ドルで、米国の6万2981ドルの約600分の1だった。この数字からは、米国の1人分の食料や衣料品を、ソマリアでは600人が分け合って生活しているようなイメージが湧くが、生活のスタイルがまったく異なっているので、そこまで厳しいわけではない。

元フィナンシャル・タイムズ東京支局長のデイヴィッド・ピリング氏はケニアの牛肉消費の80%は遊牧民が生産しているという推計を紹介し、遊牧民の一生はGDPでは見えないものとなっていると述べている(Pilling, David. "The Growth Delusion" . Crown/Archetype. Kindle 版.
〈邦訳『幻想の経済成長』仲達志訳、早川書房、2019〉)

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