コロナ直撃のベンチャー、決死の「生き残り策」 業態転換に費用削減、危機をどう乗り越える

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既存事業の強みを生かしつつも、まったく別のサービスを作り、新しい顧客を開拓しようとするベンチャーもある。バーチャルユーチューバー(Vチューバー)のライブイベントなどを手がけるバルスがその1社だ。

バルスは自社で抱える専用スタジオでVチューバーの動画コンテンツを作成しユーチューブやVR端末向けに配信したり、映画館などに集めたユーザーに向けてのライブ配信イベントを行ったりといった事業を収益源としてきた。だが新型コロナの影響で、まずユーザーを一堂に集めるイベントを延期せざるをえなくなり、チケット販売や現地でのグッズ販売による収入が激減している。

Vチューバーのライブイベントで培ったノウハウをサービス化し外販へ(写真:バルス)

続いて、一定人数を狭い現場に集めることになるスタジオの使用も、必要最低限に自粛することとなった。現在は全社的にリモートワークを基本としており、イベント関連は緊急事態宣言解除後を見据えた準備などしか行っていない。全社の売上高は新型コロナ以前の半分程度まで落ち込んでいる。

こうした状況を打開すべく同社が乗り出したのが、有料ビジネスセミナーを行う企業向けの配信サポートだ。Vチューバーイベントの背景の仕組みとして自社開発したものをプラットフォーム化し、今急速に開催が増えているオンラインでのビジネスセミナーに外販しようというものだ。

求められる外部環境への俊敏な適応力

一般向けの配信ツールには現状、セキュリティ面の不安や、チケット販売等の決済、ログイン認証など機能面の不足がある。また、チケット販売は「Peatix」、配信は「YouTube」というように必要な機能が複数ツールにまたがることで、「管理コストが上がるだけでなく、ユーザーを1つのIDで認識できず“ファン化”するためのマーケティングも行いにくい」(バルスの林範和CEO)。

同社の提供する仕組みはチケットの購入・決済、チケットのもぎり(入場管理)、紹介商材の物販(EC)、配信、コメント・アンケート収集といった、ライブイベントに関わる全工程を一括管理・運用できる点をアピールする。

5月中は初期費用(ページ作成費用)の無料キャンペーンを行うほか、イベント実施まで最短1日での対応も行い、認知度向上に徹する。その後は月額課金や、セミナーで上がった収益に応じたレベニューシェアを行う事業モデルの構築を目指す。

コロナショックに直面した企業の最新動向を東洋経済記者がリポート。上の画像をクリックすると特集一覧にジャンプします

ビジネス系ではないものの、都内のライブハウスによる配信や、BS-TBSと作家集団・クリエイティブボードが運営するリモート配信劇場「うち劇」などへ同プラットフォームの提供が始まっている。

もちろん、バルスとしてVチューバーの事業をあきらめたわけではない。だが、「短期的にはリアルなエンタメ産業の多くが休止となる中、ユーザーや投資家に振り向いてもらうには、目の前の社会課題にマッチする事業で存在感を示すことも必要」(林氏)。急変する外部環境への俊敏な適応力が企業の生死を分かつ――。世界が未曽有の危機に見舞われる今、これはベンチャーに限ったことではないだろう。

長瀧 菜摘 東洋経済 記者

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ながたき なつみ / Natsumi Nagataki

​1989年生まれ。兵庫県神戸市出身。中央大学総合政策学部卒。2011年の入社以来、記者として化粧品・トイレタリー、自動車・建設機械などの業界を担当。2014年から東洋経済オンライン編集部、2016年に記者部門に戻り、以降IT・ネット業界を4年半担当。アマゾン、楽天、LINE、メルカリなど国内外大手のほか、スタートアップを幅広く取材。2021年から編集部門にて週刊東洋経済の特集企画などを担当。「すごいベンチャー100」の特集には記者・編集者として6年ほど参画。2023年10月から再び東洋経済オンライン編集部。

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