折しもKMWは昨年末、J-KISS(転換価格調整型新株予約権)という仕組みを活用し資金調達を行ったばかり(調達額、調達先は非公開)。J-KISSは、一時的にはバリュエーション(企業価値の算定)をせずに資金調達を行える、創業期のベンチャーにとって便利な手段だ。
ただし、ここで資金を出した投資家にとっての“うま味”は、次の資金調達時にKMWの企業価値が上がることで初めて見えてくる。つまり、新型コロナを機に経営が行き詰まって企業価値が下がる、いわゆるダウンラウンドとなってしまえば、投資家の期待を大きく裏切ることとなり、この先、資金の出し手がいなくなってしまう可能性がある。
トップダウンで決断したコスト削減
従来どおりの方法で成長を目指せない中、どう企業価値を上げるのか。染谷氏はまず、大胆なコストカットに着手した。社内に打ち出した「残す・削る」の見極め基準は4点。「何らかの収益に結びついているコストか」「定性的な果実(ブランド形成等)に結びついているコストか」「将来の成長に結びつくコストか」、そして全体に関わる方針として「削減コストを抽出・精査するために膨大な時間を使わない」というものだ。
この方針に照らし、名刺情報管理・共有ツールなど「あったら便利」という類いのサービスは、コロナ影響の兆候が見え始めた2月には軒並み解約した。社員はすでに全員リモートワークに移行しており、東京都港区に構えるオフィスもこの夏をメドに解約する。新卒・中途の人員採用も全面的にストップしている。
一方で、見込み顧客の紹介窓口という役割も担っている顧問との契約・支払いは、「売り上げに結びついているコスト」であるため、減額には応じてもらったものの継続することとした。また、ホームページでの発信力強化やオンラインも含めた顧客イベントの実施なども、対外的なメッセージ発信で「ブランド形成に結びつくコスト」と位置づけ、引き続き手を緩めずに投下していく方針だ。
こうした判断について染谷氏は、「マネジャークラスのメンバーにも意向は一切聞かず、すべてトップダウンで行った」と語る。結果として、削減のメドが立ったコストは年間8000万円に上った。「ここまでやったことで、初めて社員に危機感が伝わった。全社的にモードが変わったように思う」(染谷氏)。
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