43歳で"実家を捨てた"女性が語った絶望の過去 「シンデレラみたい」長年癒えなかった傷

✎ 1〜 ✎ 29 ✎ 30 ✎ 31 ✎ 最新
著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

父親も妻を止めるどころか、加勢していました。よく濡れ布巾やガラス製の重い灰皿を投げつけられましたが、なぜか「濡れ布巾のほうが痛かった」という記憶です。灰皿は痛すぎて記憶から消えたのか、身体に当たらなかったのか――いまはもう、わかりません。

虐待が発覚したのは、祖父母の家に泊まりに来た葉子さんと風呂に入った祖母が、背中に大きな火傷痕があるのを見つけたためでした。継母はよく体罰のため、葉子さんにお灸を据えて、皮膚に黒く焦げつくまで放置していたのです。

「これをきっかけに“野田さんち家族会議”が開かれて、小2の後半から祖父母の家に引き取られました。それまでも、私はばあちゃんちに行ったとき必ずテーブルの脚にしがみついて『帰るのやだ!』とわめいていたらしく、『いっつもわめくから、おかしいと思うとった』と言っていました」

継母が実の母親ではないと知ったのは、それからしばらく経った頃でした。テレビを観ていた葉子さんがふと、「妹ばかりお母さんにかわいがられて、私は嫌われとる。シンデレラみたい」と口にしたのです。祖母はショックを受け、「あの人はあんたの母じゃない」と、泣きながら教えてくれたのだそう。

「ああ、そうだったんだ! みたいな感じです。だから私のことを嫌っていたんだ、だから私いじめられてたんだ、って自分のなかで答えが出たような」

自分が悪かったわけではないことがわかったんですね、と筆者が言うと、葉子さんは頷きつつ、「でもそう思うと、『うちの父親は“ほんともん”なのに、なんで?』と思った」といいます。

もしかしたら父親には、再婚相手に連れ子の世話をさせる負い目があったのでしょうか。あるいは単に父親の人間性の問題だったのか。わかりませんが、継親の仕打ちが自分のせいでないと継子が気付くことは、大事なように思います。

筆者の周囲にも、継母の立場の友人や知人は何人もいます。皆もちろん虐待などしておらず、シンデレラの物語のせいで世間から「意地悪な継母」と見られがちなことに傷ついているのですが、でも実際に虐待されてしまっている継子からしたら、シンデレラは救いの物語なのでしょう。あの話を知っていれば、不当に自分を責めずに済むからです。

継親の虐待が多いように見えるのも、子どもが「自分が悪いせいではない」と気付いて声をあげやすいためなのかもしれません。もちろん実親からの虐待も子どものせいでは断じてないのですが、子どもはそのことにより気付きにくくなります。そのため、継親による虐待の比率が、実際より多く見えがちなようにも思えます。

赤ちゃんだったいとこだけが、彼女を責めなかった

祖父母の家に引き取られても、葉子さんに穏やかな時間は訪れませんでした。祖母は祖母なりに愛情をかけてくれたのでしょうが、育てにくさもあったのか、葉子さんを常にけなしていたため、次第に彼女は表情を失い「陰気な子」になっていったのでした。

「引き取られたとき、私、嘘ばかりついてたんですって。(継母に)怒られたくないから、つかんでもいい嘘をつく癖がついとった。だからばあちゃんは『人の顔色ばかり見るし、嘘ばかりつくし、引き取るんじゃなかったと思うた』と言ってました。

次ページ就職後にも続いた苦難
関連記事
トピックボードAD
ライフの人気記事