子の幸せを願う親に知ってほしい「教育の本質」 親ができることは「選択肢を与える」ことだけ

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大人になってからの経済状態や生活の質を高める上で、就学前教育が有効であることが実証されているのです。

とくに、幼児期に適切な教育を受けた子どもは、物事をやり抜く力、集中力、コミュニケーション力といった非認知能力が向上・持続することがわかっています。教育投資効果は幼児期が一番高いのです。そうであれば、日本の課題は明らかで、7人に1人といわれている子どもの貧困問題にまずは集中的に取り組むべきです。

若いうちに「腹落ちする体験」を

また、最近の脳科学によると、人間の向学心や好奇心は、18~19歳ごろにピークを迎えるという研究結果が出ています。中学生や高校生から、「どうして勉強する必要があるのか?」と質問されたとき、僕は、次の2つのことを話しています。

【勉強をする理由①】 「選択肢」が増える

「勉強をするのは、人生の選択肢を増やすため、好きなように生きるためです。

たとえばスキー場へ行ったとき、スキーを滑ることができれば、滑って楽しむことも、見て楽しむことも、どちらでも自分で選ぶことができますよね。でも、スキーの滑り方を学んでいなければ、ただ見ていることしか選択できません。どちらがいいですか? 自分で選べるほうが楽しいですよね。

勉強もこれと同じで、何かについて知っているほど、人生の選択肢は増えます。勉強はしんどいことですが、勉強した分だけ選択肢が増えて、いろいろな物事を自分で選べるようになります。選択肢が増えれば増えるほど、人生は楽しいと思うのです。

学んで知るから、人生の選択肢が増える。そして、たくさんの選択肢の中から選ぶことができるから、好きなように生きることができる。人生一度きりだったら、好きなように生きたいとは思いませんか?」

【勉強をする理由②】 「生涯収入」が高くなる

『「教える」ということ 日本を救う、[尖った人]を増やすには』(KADOKAWA)
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「18歳、19歳くらいまでにきちんと勉強をした人は、勉強しない人よりも生涯収入が高くなります。これは科学的にも証明されているファクトです。同じ仕事をするなら稼いだほうが、その分選択肢も増えて、得ですよね。だとしたら、高校生までの間に、勉強する習慣をつけたほうが得。生涯収入が上がるか上がらないかは、君たち次第です」

18歳、19歳の感受性の鋭いときに学習習慣や学習意欲を身につけて、「学ぶことは楽しい」「知ることはおもしろい」という感覚を覚えると、自転車の乗り方を一生忘れないのと同じで、社会人になっても「おもしろい」という記憶が残って、一生学び続けます。

そして、社会人になっても学び続ける人は、単純にいえば、上司からかわいがられるので出世しやすく、生涯給与も普通の人よりずっと高くなります。

高校生から大学生の初期のころまでに、「知らないことを学ぶのは楽しい」「わからないことが腹落ちすると気持ちがいい」という感覚を身につけると、その後の人生においても、好きなことができて、その上、経済的にも満たされるようになるのです。

楽しく豊かな人生をおくるには、幼児期から18歳、19歳までの学習習慣が決定的な役割を担っているのです。

出口 治明 立命館アジア太平洋大学(APU)学長

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でぐち はるあき / Haruaki Deguchi

1948年、三重県生まれ。京都大学法学部卒業後、日本生命保険相互会社入社。ロンドン現地法人社長、国際業務部長などを経て2005年に同社を退職。2008年にライフネット生命を開業。2017年に代表取締役会長を退任後、2018年1月より現職。『生命保険入門 新版』(岩波書店)、『人類5000年史Ⅰ』(ちくま新書)、『「全世界史」講義Ⅰ、Ⅱ』(新潮社)、『仕事に効く教養としての「世界史」Ⅰ、Ⅱ』(祥伝社)、『本の「使い方」1万冊を血肉にした方法』(角川oneテーマ)、『教養は児童書で学べ』(光文社新書)、『ゼロから学ぶ「日本史」講義Ⅰ』(文藝春秋)など著書多数。

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