子の幸せを願う親に知ってほしい「教育の本質」 親ができることは「選択肢を与える」ことだけ

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興味がない人に対して教える方法はありません。逆にいえば、その人が興味をもったこと、勉強したいと思ったことを、興味をもったときに教えるのが、一番効果的なのです。

子どもの可能性を見つけるのが親や教師の務め

大学は、自発的な学びを後押しする場です。僕が学長を務める立命館アジア太平洋大学(APU)では、学生が自分のやりたいことを見つけられるよう、アクティブ・ラーニング(能動的な授業・学習)を積極的に取り入れています。

APUには、ビュッフェのメニューのように、たくさんのプログラムが用意されています。そしてその中から、学生に好きなものをピックアップしてもらいます。

ビュッフェで食事をするとき、僕は「いろいろな料理を少しずつ食べてみて、自分の口に合うものをもう一度がっつり食べるタイプ」ですが、教育もビュッフェに似ていて、子どもにさまざまな可能性を提供することが大切です。

ピアノでも、バレーでも、水泳でも、プログラミングでも、英会話でも、いろいろなことをできるだけ自由にやらせてみる。その中で、子どもがニコニコしてやっているものだけを残して、あとはやめればいい。本人のやる気がないものはしょせん伸びないからです。

親が子どもにできることは、「人と違っていいんだよ」「人にはいろいろな個性があるんだよ」と子どもの個性、多様性を認めた上で、「いろいろな世界を子どもに見せて、子どもの興味や関心を引き出す」ことに尽きるのです。

僕が日本の教育においてもっとも危惧しているのは、根拠なき精神論がまん延していることです。

たとえば、一部には「子どものうちに英語を教えると考える力がつかない」という意見を述べる人もいますが、これも根拠なき精神論の一種です。そう思うのなら、エビデンスを明示すべきです。

最新の脳科学では、母国語をつかさどる部位と第2言語をつかさどる部位は違っているという意見もあります。国語・算数・理科・社会の主要4科目に英語を加えても、考える力の妨げにはならないことは常識でもわかる気がします。

これからは教育現場から根拠なき精神論や根性論を一掃して、脳のしくみや人間心理など、サイエンス(科学)の視点に基づいた教育を行っていかねばなりません。

たとえば、アメリカの研究などでは、できるだけ幼児期に教育投資をしたほうが学習効果が高くなることが明らかになっています。

アメリカの労働経済学者で、ノーベル経済学賞を受賞したジェームズ・ヘックマン教授らは、「幼少期に適切な教育を受けることによって養われた学習意欲が、その後の人生にも大きく影響する」という研究成果を発表しています。

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