朝ドラ「エール」に音楽好きが注目する理由 コロナ禍を癒やす「ライブ朝ドラ」の可能性

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そして3つ目の、音楽好きとして最も大きな期待は「ライブ朝ドラ」という点にある。「ライブ朝ドラ」は造語だが、つまり歌や演奏を別人に任せたり、別録りしたりせず、あくまで「俳優本人たちがライブで歌い・奏でる朝ドラ」という意味である。

ここまでの『エール』の山場は2回あった。1つは4月8日の第8話におけるオペラ歌手・双浦環(柴咲コウ)の歌唱シーン。もう1つは同10日の第10話における、関内音(清水香帆)が『竹取物語』の舞台上で『朧月夜』を歌うシーン。

先の『NHKドラマ・ガイド~』で柴咲コウは「しかも初登場シーンは、オペラで聴衆を魅了して幼い音に衝撃を与えるという場面でしたから、もう大変な試練。音が環に憧れる気持ちを邪魔しないように、という一心で歌いました」と語り、清水香帆は「感情を込めながら優しい気持ちで歌えるように、毎日、歌の練習をしました」と語る。つまりは吹き替え無しである。

「ライブ朝ドラ」で思い出すのは、まずは何といっても『あまちゃん』(2013年)における、『エール』にも出演中の薬師丸ひろ子(鈴鹿ひろ美)による『潮騒のメモリー』の生歌だ(おまけに生演奏)。また『ごちそうさん』(13~14年)で、高畑充希(西門希子)が商店街の中で歌った『焼氷(有りマス)の唄』も抜群だった。

音楽に妥協しない朝ドラ、登場人物がライブで歌い・奏でる「ライブ朝ドラ」。音楽好きとして『エール』に期待する最も大きなポイントは、そこにある。

前半の山場は、来週の第5週「愛の狂騒曲」だろう。古山裕一が豊橋を訪れ、関内音と一緒に演奏会を行うのである。裕一による指揮、演奏、そして音の歌……このシーンにおける「ライブ感」のクオリティが、『エール』の今後を決定付けるのではないだろうか。

コロナ禍のテレビ界における「エール」の存在感

本連載前回の「『King Gnu』の音楽が別格的人気を得た理由」で書いたように、King Gnuは、今や紅白歌合戦では珍しい生演奏・生歌で実力を見せ付けることで、人気に拍車がかかった。

対して、現在のテレビ界は、新型コロナウイルスの影響で、生放送であっても、ゲストのリモート出演が普通になっている。いくらリモート画像が鮮明になっても、そこに、人と人との生々しいコミュニケーションは期待しにくい。さらには、NHKをはじめ、テレビ各局はドラマが現在収録休止となっている。

そんな中、「ライブ朝ドラ」としての『エール』には大いに期待したい。新型コロナ関連情報の物々しい枠から飛び出す、生々しく、汗臭い、つまりは人間臭い音楽に耳を澄ませたいと思うのだ。

スージー鈴木 評論家

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すーじー すずき / Suzie Suzuki

音楽評論家・野球評論家。歌謡曲からテレビドラマ、映画や野球など数多くのコンテンツをカバーする。著書に『イントロの法則80’s』(文藝春秋)、『サザンオールスターズ1978-1985』(新潮新書)、『1984年の歌謡曲』(イースト・プレス)、『1979年の歌謡曲』『【F】を3本の弦で弾くギター超カンタン奏法』(ともに彩流社)。連載は『週刊ベースボール』「水道橋博士のメルマ旬報」「Re:minder」、東京スポーツなど。

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