「羽田就航延期」の豪ヴァージン、コロナで破綻 オーストラリア2番手、経営不振に追い打ち

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しかし、VAは新型コロナウイルス問題が勃発する前から、厳しい経営状況に置かれていた。過去10年間に黒字となったのは2期のみで、過去7期は連続赤字。2019年末時点で、従業員への未払い賃金も含めた負債が約50億オーストラリアドル(約3400億円)に達していた。

同社は3月末から、業務継続に向けて連邦政府に対し14億オーストラリアドル(約950億円)の融資を求めていたが、必要な支援を得られなかった。現地では「もともとのVAの資本構成にオーストラリア資本がほぼ入っていなかったことから、連邦政府が支援を渋ったのではないか」との声も聞かれる。

ただ、幸いなことに、同社のマイレージプログラム”Velocity"はVAと異なる法人が運営していることから、利用者が貯めたマイレージの消滅は避けられるという。

VAの今後はどうなる?

ブランソン氏にとって、VAの羽田就航は悲願だったことだろう。なぜなら、VSのロンドン―東京便は羽田乗り入れを果たせぬまま日本撤退の憂き目に遭っているからだ。

ブリスベン空港の荷物受け取り用コンベアに乗って「寿司」とともに現れたリチャード・ブランソン氏=2019年11月(写真:ヴァージン・オーストラリア)

VAの羽田就航が決定した直後の昨年11月、ブランソン氏はブリスベン空港で、空港の荷物受け取り用コンベアに乗って巨大な寿司の模型とともに人々の前へと現れた。これは「回転寿司」を模したもので、ブランソン氏自身も寿司のようにゴム製バリアの向こうからベルトに乗って出てくるという「やんちゃな騒ぎ」を起こしたというわけだ。羽田就航にかける期待が表れた演出だった。

ブリスベンを州都とするクイーンズランド州は、美しい海岸で知られるゴールドコーストを擁し、日本からほぼ時差のない海外旅行先としてハネムーナーらに高い人気を誇ってきた。そうした背景から、VAの羽田就航は日本でも大きな期待を寄せられていた。

VAは運航の継続を表明している。管財人に指名された大手会計事務所デロイトの関係者は「適切なリストラと債務借り換えを実施し、速やかに管財人の管理下から脱却させたい」とし、「業務は切り売りではなく、全体をまとめて売却するのが望ましい」との考えを述べている。

一方、VAのポール・スカラー最高経営責任者(CEO)は、「過去20年に渡って当社は豪州旅行業界の一翼を担ってきた。豪州には2番手の航空会社が必要」と訴え、QFによる独占状態への懸念を指摘した上で自社の事業継続に意欲を示している。

コロナ禍で航空各社の先行きは非常に厳しい状況にある。国際線を中心にほとんどのフライトが運休となる中、各国の航空会社で乗務員の一時帰休や解雇の動きが進む。大手のVAがついに経営破綻し、今後同じ道を進む会社も増えていく可能性は高い。こうした闇から抜けるには、はたしてどのくらいの時間がかかるのだろうか。

さかい もとみ 在英ジャーナリスト

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Motomi Sakai

旅行会社勤務ののち、15年間にわたる香港在住中にライター兼編集者に転向。2008年から経済・企業情報の配信サービスを行うNNAロンドンを拠点に勤務。2014年秋にフリージャーナリストに。旅に欠かせない公共交通に関するテーマや、訪日外国人観光に関するトピックに注目する一方、英国で開催された五輪やラグビーW杯での経験を生かし、日本に向けた提言等を発信している。著書に『中国人観光客 おもてなしの鉄則』(アスク出版)など。問い合わせ先は、jiujing@nifty.com

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