トランプ政権の失策でアメリカの危機は深刻に NYはピークアウトでもコロナは全米に拡散

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脆弱な体制で連邦政府の初動が遅れたことは甚大な被害をもたらした。連邦政府は州政府、市政府独自では得ることが困難な情報を把握しており、それが自治体まで早期に伝わっていれば、今の状況は違っていた可能性が高い。例えば、2月25日にニューオーリンズ市で開催されたアメリカ最大のカーニバルである「マルディグラ」も、正しい情報を市政府が連邦政府から入手できていれば、開催中止が検討されたであろう。

大統領のリーダーシップ欠如が危機を悪化させた

戦時下では政府は通常は取らない対策も取らなければなない。その際の頼みは大統領のリーダーシップだ。政権内ではさまざまなチームが異なる対策を主張して一致せず、大統領のリーダーシップの欠如によって、公衆衛生専門家が推奨する必要な対策が、国民に早期に示されることがなかった。その結果、一部の州知事や企業は国に先行して、個別に対策を実施してきた。本来、連邦政府主導ですべての国民を動員し、産業界の協力を得て対策を迅速に取る、というのが戦いに勝つやり方だ。

現状では問題は3つ指摘できる。

第1に対策が州ごとにつぎはぎだらけであること。

全米50州のうち5州がいまだに外出禁止令を出していない。それらはアイオワ、ネブラスカ、サウスダコタ、ノースダコタ、アーカンソーといったレッドステート(共和党が強い州)だ。例えば、イリノイ州のJ.B.プリツカー知事(民主党)が3月21日に外出禁止令を出しても、西隣のアイオワ州のキム・レイノルズ知事はいまだに出していないといった事態となっている。

コロナウイルスの行く先は国境あるいは州境などおかまいなしだ。ブルーステート(民主党が強い州)、レッドステートといった政治にも関係ない。直近では、内陸のレッドステートでも感染者は確実に拡大しつつある。外出自粛・禁止の指示は各州政府が権限を保有し、州によっては市町村に権限を委譲しているが、共和党出身の知事の多くは政権の指針に影響される。フロリダ州のロン・デサンティス知事(共和党)は、政権が外出自粛を延長しトランプ大統領との電話会談ができるまで動かなかった。2極化する政治において、特にトランプ大統領が共和党出身の知事に強い協力を要請しなければ国内の感染者拡大は避けられない。

第2に国防生産法(DPA)が有効に活用できていないことだ。

コロナ危機はアメリカ史上初の全国規模の危機だ。50州すべての要請を受けて大統領が「大規模災害宣言」を同時期に発令したのは、初めてのことだ。ほかの災害などと違って、いずれの州も影響を受けているため、ほとんどが他の州を支援する余力などなく、逆に各州が医療物資を取り合っている状況だ。それを調整するのが連邦政府の役割なのだ。

ところが、トランプ大統領は緊急時に与えられている権限を十分に利用していない。中でも注目すべきは国防生産法(DPA)だ。DPAに基づき、大統領は不足する物資の生産をゼネラル・モーターズ(GM)などに命じたが、共和党保守派や産業界からの反発に配慮したためか、遅きに失した。DPAでさらに重要な条項は便乗値上げする業者を防ぐことだが、大統領はいまだにそれを利用していない。連邦政府が医薬品や医療機器の資源配分を管理できていないことが、問題を悪化させている。

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