トランプ政権の失策でアメリカの危機は深刻に NYはピークアウトでもコロナは全米に拡散

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オバマ政権は豚インフルエンザ(H1N1)、エボラウイルス、ジカウイルスといったさまざまな感染症対策を経験している。その教訓をトランプ政権に引き継ぎ、架空の「クリムゾン伝染病」と称する呼吸器系ウイルスのパンデミックに対応するシミュレーションまで行われた。同会合では、グローバリゼーションや国境を越える人の往来の拡大により、ワクチンがない呼吸器系疾患のインフルエンザの国外からの流入を防げない可能性についても、説明があったという。今、振り返ると、オバマ前政権はコロナ危機到来の予想を的中させたといえよう。

だが、トランプ政権で前政権のパンデミックに関する教訓は生かされなかった。その背景には、トランプ政権が発足後3年間、国土安全保障に関わるフォーカスを移民政策にシフトしてきたことがある。移民政策はそれを掲げて当選したトランプ大統領にとって、再選に向けて重要である。予見不可能な「ファット・テール・リスク」のパンデミックではなく、目先の移民政策に人と金を注いだ。だが、皮肉なことに、11月大統領選では移民政策よりパンデミック対策の方がはるかに重要となる見通しだ。

2014年のエボラウイルス危機の後、オバマ政権は国家安全保障会議(NSC)内に、パンデミック専門チームを新設した。だが、トランプ政権の国家安全保障問題担当・大統領補佐官(当時)のジョン・ボルトン氏は2018年5月に同チームを解体。同チームを率いていたティモシー・ジーマー海軍少将は事実上解任され、パンデミックに関わる職員は他の部署に異動となった。その結果、パンデミック危機に対する政権内の体制は崩壊していた。

国土安全保障省の定まらない人事

新型コロナウイルスの存在が伝えられた当初、CDCやアメリカ食品医薬品局(FDA)など政府内には心配する声もあった。2020年1月初め、アレックス・エイザー保健福祉長官は本件について助言しようとしたものの、大統領とは面談さえ設定できず、2週間を経たあとにようやく電話会議のみ行われたという。また、ピーター・ナバロ大統領補佐官やマシュー・ポッティンジャー国家安全保障会議(NSC)アジア上級部長など対中強硬派も大統領に警告していた。

警告の声は増えたにもかかわらず、パンデミック専門チームがない状況下で、トランプ大統領に対し本件を助言する正式ルートがなく、政府としての対策が遅れた。初の感染者がワシントン州で報告されたのは1月だが、トランプ政権が本格的に動きだしたのは3月で、2カ月の貴重な時間が失われた。

さらには、パンデミック対応の実行部隊である国土安全保障省の高官ポストの度重なる人の交代や人材不足も問題視されている。国土安全保障省では政権発足時のケリー長官の後、キルステン・ニールセン長官、そして現在はケビン・マカリーナン長官代行がトップとなっている。国土安全保障はどの省よりも空席が目立ち、多くの高官ポストを「代行」が担っている状態だ。上院で承認されていない代行では責任感が欠け、本腰を入れて仕事をできない面がある。

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