80代の患者もいれば、30代の患者もいた。喘息と糖尿病が重篤な疾患につながった患者。危険要因がまったくないように見えた患者。養護施設からの患者。ホームレスの患者。妊娠中の女性。女性の生存の確率を高めて子どもを育てることができるよう、意識のない状態で出産を迎える女性もいる。
ブルックリン・ホスピタル・センターがウイルスに打ちのめされた1週間だった。ニューヨーク市内のほかの病院も同様であり、死者は2000人を超えた。必要とされる設備や備品がわずか数日で不足すると知事が警鐘を鳴らし、医師の増員を市長が嘆願し、病院幹部と政治家の双方が事態はさらに悪化すると認めていた。
医師や看護師の3分の1が病欠
中規模の地域病院であるブルックリン・ホスピタル・センターにとって、悲劇は誰の目にも明らかだった。ウイルスによる死者数は前週の5倍を上回った。新型コロナウイルス感染症が確定した入院患者の数は15から105に増加し、さらに48人が結果待ちだった。
病院幹部の目算では、医師や看護師のおよそ3分の1が病欠だった。病院ではプラスチック製の防護ガウン、人工呼吸器を装着する患者のための鎮静剤、血圧の薬が一時的に底をついた。こうした緊迫感と悲壮感は、ネットで流れている動画によって一段と強まった。フォークリフトで遺体を持ち上げ、病院の外の冷蔵トレーラーに運び入れるというものだ。
悲劇が続き死者が増え続ける。そんな中でローゼンバーグ医師は、他の人を助けるために愛する人と別れる大切さを説かなければならなかった。疲弊した彼は一息ついて自分のチームが患者の面倒を見るのを眺めた。そして言った。「できる限りのことをするまでだ」。
ローゼンバーグ医師は前の週、自宅に待機していなければならなかった。高熱と激しい疲労感があり、COVID-19を自ら疑った(回復後に受けた検査では後に陰性と確認された)。寝室に向かうために階段を上るのもやっとだった。月曜日に仕事に戻るのは嵐に入って行くようなものだと彼は記者に語った。
その日、ローゼンバーグ医師は同僚にこう言った。「こんなのは狂っているよ」。
自宅待機となった時点では、ICUは通常の18床だった。が、それから救急外来は患者であふれかえることになった。さらに病院は屋外にテントを設営し、毎日多数の人々を検査しなければならなくなった。多くは軽症で、安心して家に帰った。
しかし、ローゼンバーグ医師が不在の間、重症化する人の数は爆発的に増えた。ICUの拡張が必要とされ、再拡張も必要となり、その規模は実質的に倍増された。「この1週間で外側の混雑は内側の混雑に変わった」と病院の幹部で渉外を担当するレニー・シングルタリーは言う。