ニューヨークの病院が今、直面している「危機」

米国人記者が見た医療崩壊のリアル(上)

ICUでの朝の報告が始まりもしないうちから、ローゼンバーグ医師やほかのスタッフは外来部門に駆けつけなければならなかった。透析のために病院を訪れた中年の男性が大量に発汗していたためだ。スタッフは、BiPAP(バイパップ)と呼ばれる、圧縮空気を用いたマスクを使って男性の呼吸を助けようとしていた。

それはまずい、と病院の感染対策委員会の委員長でもあるローゼンバーグ医師は思った。男性の疾患がコロナウイルスによるものかをその時点で知る方法はなく、機器を使えばウイルスの微粒子が空気中に放出されてウイルスを拡散させるおそれがある。患者はICUに搬送された。ローゼンバーグ医師は同僚に言った。「男性の挿管の可能性は高く、人工呼吸器が必要になるだろう」。

1日中同じ防護服を使っている

注入化学療法部門を転用してつくられたICUでは、プラスチック製の青いガウンがドアの蝶番(ちょうつがい)に掛けられて、はためいていた。きれいに拭いた後、再び使うために乾かしているのだ。患者のベッドはすべり台のように起こされていた。プラスチック製のピンクの箱が備えられており、患者用の備品であふれていた。

ローゼンバーグ医師の救命医療チームは、寄せ集めの覆い、マスク、保護ゴーグル、髪と足のカバーを装着して集合した。防護品は足りず、患者ごとに取り替えることもできず、1日中同じものを使っていた。

感染患者の治療室に入る前に、防護服を拭くローゼンタール医師(写真:Victor J. Blue/The New York Times)

多くのスタッフが仕事を休まざるをえず、患者の数はあまりに多い。集中治療室での仕事に慣れた医師、看護師、薬剤師、呼吸療法士の補充が必要だった。ローゼンバーグ医師は、足専門医と2人の医学実習生、神経外科医のアシスタント、外科研修医、麻酔専門看護師を迎え入れた。「ナイフと大きな針を使いこなせる人たちですよ」とローゼンバーグ医師。

危篤状態の患者を5人同時に世話している看護師もいる。ローゼンバーグ医師によるとこの比率は「ありえない」。ICUで経験を積んだ看護師が対応するのは、通常2人だ。

午前10時、ローゼンバーグ医師と集中治療部門の責任者、ジェームズ・ガスペリーノ医師は病院の経営陣に急きょ電話し、センターが直面する課題と対応策について話し合った。

医務部長のヴァサンタ・コンダムディ医師は、その内容を後にこう要約している。人員は不足し、研修医が次々と病気で倒れ、病院のあらゆる場所でコロナウイルスが疑われる、あるいは確認された患者の数がうなぎのぼりに増えている――。しかし、本当の危機はまだこれからだった。

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