“ハリボテ”人間はリーダーにはなれない 「建前上の自分」で生きていくのには、限界がある 

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ドライバーのモハメドは、チュニジアからの移民で、アメリカに来てからずっとタクシーを運転しているという。生活は楽ではなく、帰国のための飛行機代が払えず、親の死に目に会えなかったことに罪悪感を抱いている。そんなある日、盲目の老婦をタクシーに乗せた。それ以来、その赤の他人である老婦のスーパーでの買い物を手伝ったり、無料でタクシーに乗せてあげたりしている。親と同年代のその老婦を助けることが、少しでも罪悪感を軽くしてくれるのだと。

モハメドとの会話は、たった20分やそこらだったけれど、普段は軽い世間話しかしないタクシードライバーの人生は、聞けば聞くほど興味深かった。それに、そこには彼の葛藤や生きるうえでの思想が凝縮されていた。

日々、何十人もの人々と接するが、そのほぼすべてが表面的な接触で、深い会話をすることはほとんどない。何年も同じ職場で働きながら、同僚のことをまったく知らないことに気づくこともある。Facebookで何百人と友達がいても、本当に困ったときに相談できる相手は一握りだったりする。そんな世の中でも、ちょっとした勇気と行動だけで、心の通った関係を築くことができる。

エリートたちの、意外な自己分析

なぜ、この授業でこのような経験をさせるかというと、その根底には、「作り上げた偽りの姿では、人をリードすることはできない」という考えがあるからだ。

奇抜な課題や本質的な問いかけをすることで、建前か本物か見分けがつかなくなっていた本来の自分を見つけ出し、長年かけて作りだされた厚い殻を割っていく。そのうえで、自分自身を真に理解し、自分に合ったリーダーシップスタイルを身に付けていく。この一連の過程で、学生はあまりにも赤裸々に自分を語るので、授業登録時に秘密保持契約書にサインするほどだ。

あるとき、教授が投げかけた質問も印象的だった。「初対面の人に対して、どのような経歴を話すか?」という問いだ。

あるクラスメートは、「私はアーカンソーの中流家庭で育ち、中学・高校はアイスホッケーに没頭し、大学では全米大会に出場。その後、戦略コンサルティングファームで働き、主に金融セクターの戦略立案と組織設計を担当し、同期でトップの成績を収めた。その後、プライベートエクイティファームに転職し、2年働いた後にHBSに留学しており、卒業後はロンドンで働くつもりだ」と、挫折知らずのような彼の完璧な人生について、スラスラと語った。

次に、「では自分自身に対しては、どのように経歴を説明するか」と投げかけられた。すると、同じクラスメートは少し考えた後、次のように話し出した。

「両親はけんかが多く、幼いときは自宅に戻りたくなかったので、アイスホッケーに打ち込んだ。両親の離婚後はさらにのめり込んだが、両親はほとんど試合を観に来ることはなかった。戦略コンサルティングファームでは、ストイックな性格が邪魔をして、気の許せる同僚がいなかった」

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