「テレビ報道」ネット隆盛だからこそ必要な理念 この先ページビュー至上主義の誘惑に勝てるか

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情報は集まることで力を持ちます。ユーザーは特定の新聞や雑誌(というパッケージ)を読むという習慣を超えて、新聞社や出版社の枠組みを超えて、最も速く、最も詳しく、最も大事なことを伝え、最も楽しい話題を提供してくれる1本1本の記事を求めるようになりました。

それを再構成する形でユーザーに提供しているのがヤフーであり、LINEであり、スマートニュースなわけです。一度広いユーザーリーチを持つ盤石な基盤さえ築いてしまえば、IT企業との権益を気にすることなく、自分たちのビジネスを展開できるようになります。

テレビ業界を俯瞰してみますと、テレビ局が制作したドラマはAmazonプライム・ビデオやNetflixなどに提供していることから、一見インターネットへの取り組みが進んでいるように見えます。しかし、これは外資系のIT企業が展開するプラットフォームと日本のテレビ局であるパブリッシャーという構造ですから、ヤフーやLINE、そして新聞社などと関係と形は同じです。

もっとも、TVerというテレビ業界が打ち立てたプラットフォームは存在しますが、品ぞろえにおいて外国勢に大きく水を開けられ、結果としてユーザーシェアにおいて太刀打ちできない状況が発生しています。このままパブリッシャーとしてビジネスを推進していくのか、ラジコのような業界共通プラットフォームを構築していくのかで、未来は大きく違ってくるでしょう。

いずれにせよ、過去25年にわたって新聞業界とニュース配信プラットフォーマーの間で展開された歴史の中に、テレビ業界は学ぶところが少なくないと思うのです。

テレビ報道の未来、その先にある試練

そういう意味で、テレビ業界はまだ余裕があると言えるでしょう。しかし、テレビ局のライバルは他局ではありません。新聞社もライバルは他紙ではありませんでした。新聞、テレビ、雑誌など伝統メディアのライバルはインターネットメディアなのです。

テキスト系ニュースにおいて、読者のニーズは政治や国際報道といったハードニュースではなく、エンタメや面白ニュースにあることが明らかになり、新しく勃興したネットメディアやブログに読者を取られてきました。映像系ニュースにおいてはユーチューブが隆盛を誇っており、映像制作に携わったことがなかったユーチューバーが人気を博しているのはご承知のとおりです。

テレビ業界においては、「報道のバラエティー化」「情報番組の報道化」などという指摘がなされてきました。そのため、インターネットにおけるニュースの概念の変化を、情報バラエティーや報道番組の制作者は敏感に感じ取っていると思います。ツイッターでトレンド入りしたネタを報道番組で取り上げることも珍しくありません。よく言えば、視聴者ニーズを的確に捉えているということですし、悪く言えば視聴者迎合です。

視聴率視聴主義から逃れられないテレビ局は、ページビュー至上主義の誘惑に勝てるのでしょうか。ページビューに左右されない報道を、テレビ局はインターネットの世界で打ち立てられるのでしょうか。私は少し懐疑的です。

「マスゴミ」「偏向報道」「報道のバラエティー化」などと、さまざまな批判にさらされながらも、インターネット以前の時代より脈々と続く報道の価値や理念が業界内で根本的に損なわれたわけではないこと、逆に抽象的な意味でジャーナリズムに求められる期待の声が高まったことは、逆に評価されるべきだと思います。

しかしいずれ、テレビ局の経営が芳しくなくなってくるとしたら、おそらく間違いなく問題になってくるのが報道部門の存在意義です。ドラマやバラエティーとは違って採算性に乏しいからです。報道を本業とする新聞社においてさえ、全国の取材拠点を全廃すべきかどうかが議論されるご時世です。報道局の規模縮小を唱える声が、とくに社内において大きくなっていくことは容易に想像がつきます。

今なお継続中の「IT革命」は「情報革命」ではありません。「情報“技術”革命」です。ビジネスの“負け”を読者・視聴者迎合コンテンツで取り返そうとするならば、コンテンツは劣化していかざるをえません。健全な報道を将来的に損なわないためにも、余裕のある今のうちに報道の理念とビジネスの構築を技術の視点からも推進していく姿勢が求められています。

(月刊『GALAC』2020年5月号掲載記事を転載)

奥村 倫弘 東京都市大学メディア情報学部教授

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おくむら みちひろ / Michihiro Okumura

1969年大阪府生まれ。同志社大学卒。1992年読売新聞大阪本社入社。1998年にヤフーに移り、ヤフー・ニュースの立ち上げ人としてプロジェクトに携わったほか、ヤフー・トピックス編集長、メディアサービスカンパニー編集本部長を務めた。その後、ウェブメディア「THE PAGE」の編集長を経て、2019年4月から現職。フロントラインプレス(Frontline Press)所属

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