「テレビ報道」ネット隆盛だからこそ必要な理念

この先ページビュー至上主義の誘惑に勝てるか

かつて新聞業界も同じようなスタンスでした。新聞業界が部数を失い始めた2000年初頭、インターネットとの距離を取りつつ、「本業」である紙の凋落を食い止めようとしていましたが、そうとも行かず「ウェブ・ファースト」を合言葉にネット第一優先の経営へと変化させたのです。

新聞業界がインターネットの時代に入って事業化を模索してきたのは、主に次の3つ。すなわち、(1)広告モデルによる記事のマネタイズ、(2)有料課金モデルの導入、(3)プラットフォーム事業の展開──でした。ライバル社が消えるのを待って最終的には残存者利益を狙っているように見える新聞社もありますが、ここでは例外としましょう。

広告モデルによるマネタイズは、UGC(User Generated Contents)やCGM(Consumer Generated Media)と呼ばれるユーザー自らが情報を発信するメディアの数が爆発的に増えた結果、昔のように簡単なものではなくなりました。広告に注力しすぎると、「視聴率至上主義」と同じような「ページビュー至上主義」に陥る恐れがあります。

有料課金モデルは、日本経済新聞を筆頭に朝日新聞など各社が力を入れていますが、いわゆる速報記事はコモディティー化しており、値が付きません。ネットメディア界隈では、一般的なニュースは無料で、個人の趣味や嗜好に合っていたり、よほど深いレポートを掲載したりしていない限り、記事を買ってもらえないことがやや常識になりつつあります。

また、地上波テレビは、歴史的に無料でニュースを提供してきたわけですから、課金に見合ったコンテンツ制作のノウハウ作りやマインドセットの変更はかなりの努力を要するでしょう。テレビ業界が制作した共通プラットフォームにはTVerがありますが、報道の共通プラットフォームはまだありません。これについては後述しますが、可能性は残されているといえるでしょう。

パブリッシャーかプラットフォーマーか

1995年にインターネットが登場して以来、報道の世界で大きく変わったのは、「理念」や「手法」ではなく「流通」、つまり「ビジネス」のあり方でした。これは誰の目から見ても明らかな変化です。新聞販売店を通じて配達される新聞紙は日常生活で目にすることはなくなり、代わりにヤフーやLINE、ツイッターやフェイスブックといったニュース配信プラットフォーマーが流通の要衝を押さえました。

この流通の変化によって、マスコミの中でも最も大きな影響を受けたのが新聞業界でした。インターネットの黎明期からテキストコンテンツとHTMLの親和性は高く、テキストコンテンツを中心に事業を展開してきた新聞業界がまず初めに変化の波に直面したというわけです。

新聞業界は、自分たち独自の横断的なプラットフォームを持ちたかったと言われています。読売、朝日、日経の販売協力から始まった「あらたにす」(2008~2012年)の取り組みがそれです。なぜ新聞業界独自の配信プラットフォームが実現できなかったかは、下山進著『2050年のメディア』(文藝春秋)に詳しく書かれていますが、決して技術的なハードルが問題だったわけではありませんでした。業界内の人間関係の信頼構築に失敗していたのです。放送業界はこれを他山の石とすべきです。

そういう文脈で、ラジオ業界の動きは参考になるかもしれません。ラジオ業界については、日本のインターネット事業者がほぼノーマークだったこともあり、独自の変化を遂げてきました。その代表的な例が、ご存じのラジコです。このアプリがあったことで、ラジオ業界は奇跡的な大同団結を実現しつつあります。

ラジコには民放連に加盟する101のラジオ局のうち、93局とNHK、放送大学がこの音声プラットフォームに参加しています。1日のユニークユーザーは120~130万であり、有料会員(月額350円)は65万人を超えているといいます(2019年9月現在)。インターネット広しといえども、日本のほぼすべてのラジオ局の番組が聴取できるアプリはラジコしかありません。ラジオ業界が構築したこのプラットフォームを、IT業界が崩すことは難しいでしょう。

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