「妻が夫の子育てにイラつく」のが至極当然の訳 女と男は生物的にどうしても得手不得手がある

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麻布大学獣医学部の菊水健史教授(筆者撮影)

自身も1児の父である菊水氏は、「僕も妻に『それは研究の世界の話でしょう』と言われますが」と苦笑しながら「どんな生物にも、子育てには明らかな『性差』があります。男性は、女性より苦手です」と言う。

「平等という言葉を、どうとらえるかが問題です。学業やビジネスでは、基本的に男女の差はないと思っていいでしょう。勉強や仕事は、大脳皮質を使うヒトに特有の作業だからです」

しかし、子育てで使われる脳は、そこではない、と菊水氏は指摘する。

「子孫を産み育てる行動は、ヒト以外の動物にもある非常に古い脳がつかさどる仕事です。そこにある視床下部という器官からオキシトシンというホルモンが分泌されて養育行動が起こりますが、実は、男性ホルモン(テストステロン)は、育児行動を起こすホルモン『オキシトシン』の分泌を阻害するのです」

男女は脳内物質に違いがあると踏まえて

オキシトシンは、子どもが巣から落ちたら拾いに行ったり、子どもを温めたり、なめたり、食事を与えたりする養育行動を起こさせる。菊水氏がすすめるのは、男女は脳内物質に違いがある生き物だということを踏まえたうえで、お互いの特性を生かした協力体制をつくることだ。

「近年、分子遺伝学的手法や、微量分子測定の技術革新によって、心や行動を左右するホルモンや神経伝達物質などがどんどんわかってきています。夫婦、親子の関わりもさまざまな分子が関与していることがわかってきたので、子育てを楽にするには、こうした知見も参照していくべきではないでしょうか」

「人間だけを見ているとわからないのですが、生物は、種によって、子育てで誰が何をするかが決まっています。そして、何かの理由でその環境が整わないと、親は強いストレスを感じます。動物実験では母親が消耗して痩せてしまったり、子どもをなめる回数が減ったりして、子どもの成長にも影響が出ます」(菊水氏)

哺乳類は、メスはすべて育児をするが、クマのように群れをつくらない種の中には、オスは交尾後どこかへ消えてしまうものが多い。メスは生まれてきた子どもをひとりで育てる。哺乳類の種の約半数は、このタイプだ。

家族を中心とした群れを作る種でも、もっぱら母親が子育てをする。オスは、少し大きくなった子どもと遊んだりはするが、母乳を飲んでいる間は基本的に関わらない。菊水氏によると、群れで生活する動物のオスが子育てをしないのは「子どもが自分の子どもである確証がないから」だそうだ。

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