「妻が夫の子育てにイラつく」のが至極当然の訳 女と男は生物的にどうしても得手不得手がある

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「子どもが泣いても私はすぐに起きるのに夫は寝ている」「夫が指示待ちでイライラする」という不満を持つ母親は多いが、ホルモンの出方にハンディを持つ夫は、妻と同等にできなくても責められないところがある。そうであれば、夫は妻をいたわったり、妻が育児以外の事をやらずにすむように家事や片付けなどをサポートしたりするという作戦が有効ということになるだろう。そうしながらも子どもと触れ合っていれば、父親もオキシトシンが増えていく。

菊水氏は、育児の内容に、性による得意・不得意があることを示す研究も多いと言う。

「寝かしつけのように『子どもがじっとしている育児』は、テストステロンが多い男性がやると声が大きかったり、子どもにくわえる力が加減できなくて強すぎてしまったりすることがあります。すると、子どもが緊張して、かえって目が覚めてしまい、なかなか寝てくれません。反対に『高い、高い』のような、子どもが大きく動く育児は、一般的にいって、男性のほうが得意です」

「育児をしていると、男性ホルモンが減ってしまうのか」と、不安になる男性もいるかもしれないが、この点はどうだろう。

「そこは、トレード・オフです。諦めましょう」

では、やはり男性が育休をとったら男性社会の競争では不利になってしまうのか? これについては対策が打てる。

オン・オフの切り替えをしっかりやることが大事

「ひとりの人が「日昼は競争モード、夜は親和モード」といった使い分けをすることは可能ですよ。いわゆる『オンとオフの切り替え』をしっかりやることが大事です」

もちろん、1人ひとりを見ていけば個性があり、繊細な動作が得意な男性もいるだろう。女性も今は競争社会で活躍しているので、テストステロンの数値が高い女性が増えているという。夫婦の役割分担には、その夫婦にしかわからない機微があると思う。

ただ、私たちには遺伝子に書き込まれている、種の特性がある。子どもを迎えた夫婦がどうしても「これは、違う」と感じるものがあるなら、それは、人間がもともと集団で子育てをしていた時代の名残なのかもしれない。

父親がもっと育児をすることは、母親ひとりでやるよりはずっと楽になるだろうが、それでも、かつては経験豊かな大人数の集団でやっていたことを、たった2人で頑張ろうとしているわけだ。

お互いに多少の不満があっても「ふたりだけなのに、よく頑張っているよね」とお互いをねぎらう気持ちがあれば、現代の育児も、もっと楽になるのではないだろうか。そして、応援してくれるほかの人を少しずつ増やしていくことだ。

河合 蘭 出産ジャーナリスト

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かわい らん / Ran Kawai

出産ジャーナリスト。1959年東京都生まれ。カメラマンとして活動後、1986年より出産に関する執筆活動を開始。東京医科歯科大学、聖路加国際大学大学院等の非常勤講師も務める。著書に『未妊―「産む」と決められない』(NHK出版)、『卵子老化の真実』(文春新書)など多数。2016年『出生前診断』(朝日新書)で科学ジャーナリスト賞受賞。

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