獣や魚がどうなのかは知らない。だが古今東西、老若男女、人が悩み、迷うのは確か。“戦う哲学者”中島義道氏が開く人生相談道場に“同情”はない。ここにあるのは、感受性においてつねにマイノリティに属してきた中島氏が、壮絶な人生経験を通じて得た、ごまかしも容赦もない「ほんとうのこと」のみ。“みんな”の生きている無難な世界とは違う哲学の世界からの助言に、開眼するも、絶望するも、あなた次第である。
※中島義道氏への人生相談はこちらから
今回も、正直、困りました。相談者の相談意図がまるでわらないからです。欄外に「1972年生まれ、中小企業のサラリーマン」とありますから、40代前半の男性であることはわかります。そして、「普段は2人でつつましいながらも仲良く暮らしています」とありますから、常識(?)に従って結婚しているとみなします。
そのうえでご相談の文面を読んでみても、やはりわざわざ私に相談することの意味がよくわからない。いろいろ陰鬱な気分は書いてますが、具体的悩みは「結婚しても子供がいない」ということに収斂されてしまい、こんな人は、わが国に何百万人もいるだろうし、としても直ちには「誰にも見守られず孤独に苦しみながら死んでいく」とはつながらない。そういう人でも、兄弟姉妹の子供がいるかもしれないし、友達がいるかもしれないし、気の合った後輩がいるかもしれない。
そのすべてがいないとしても、配偶者がいるはずで、その人が先に死んだら、まさに「誰にも見守られずに」となるわけですが、自分が先に死ぬかもしれない……。というわけで、ここまで頑張って耐えてきましたが、やはり無性にイライラしてきました。空っぽの相談に向かって「答えて」いてもむなしいだけです。
空っぽの相談に「答える」のはやめます
そこで、今回は今までとはまったく異なった答え方をしようと思います。すなわち、自分のことばかり語ろうと思います。
今回のご相談を受けて最初の違和感は、子連れの家族を見ると「あこがれを感じ」と言いながら、その1行後には「誰にも見守られず孤独に苦しみながら死んでいく」とつながっていく点です。あたかも、子供を持つことは死に際に見守られたいだけであるかのよう、少なくともそれが大事なことであるかのようです。つまり、すべてが「自分のため」であるかのようです。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら