「ちはやふる」のモデルになった人たちの"現在" 「畳の上の格闘技」競技かるたの"醍醐味"

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百人一首の”聖地”、嵯峨嵐山文華館(撮影:ちはやふる基金)

末次:勝敗が頭の中にチラつかないくらい集中しているんですね。

楠木:そうですね。でも、さすがに最後のクイーン戦(2014年)は勝敗が気になりました。10期目を区切りにすると家族にも宣言していたし、支えてくださった方々に最後のクイーン戦をプレゼントしたいという想いがあったので、絶対に負けて終わることはしたくなかったですね。

末次:相当なプレッシャーがあったと思います。

楠木:正直、プレッシャーは毎年ありましたね。勝てば勝つほど、「今年はどんな勝ち方をするのか」「どれくらい枚数差をつけるのか」という声が聞こえてくるので……。その期待に応えたいという自分自身の気持ちに追い詰められていました。

末次:それであの強さを誇っているんですね。試合が始まってくると、プレッシャーは感じなくなるんですか?

楠木:そうですね。最高潮に緊張しているのは、前夜祭が終わった後のホテルです。最初の頃はクイーンという称号の重みもわかっていなかったんですが、下の世代から憧れだと言ってもらえるようになってからはどんどん眠れなくなってくるんですよ。試合で負ける夢を見て、うならされながら迎える朝もありましたね。

かるたを“取る”速さと、“逃げる”速さ

――末次さんから見た、競技かるたの魅力を教えてください。

末次:想像を絶する程の“研鑽”だと思います。誰しも1〜2枚は早く取れる札があるかもしれないですが、楠木さんや会長はその数が尋常じゃないんです。対戦相手は狙いを定めた札以外は全部取られてしまい、圧倒されてしまう。暗記力もそうだし、心を全部の札に分散させ、吸着させるだけの集中力が必要なんだと思いますね。

松川:競技かるたにおいては、“取る”速さと、“逃げる”速さの両方が重要なんです。例えば、「あまつかぜ〜」と「あまのはら〜」という札が目の前にあって、後者の札を読まれた際にどれだけ速く前者の札から逃げるか。前者の札を取るか逃げるか迷っているうちに、相手が先に逃げて、後者の札を取られてしまうというのは堪らなく悔しいことなんですよ。速く取れたのは、たまたまその札に目がいっただけかもしれないけど、速く逃げられるということは完璧に全体の配置を理解しているってことですからね。

楠木:わかります! 逆に自分が先に逃げると、対戦相手が「反応しきれなかった」という気持ちから苦笑いしてくれるときがあるんですが、それはとてもうれしいです。

末次:確かに「取れなかった」と悔しがられるよりも、「今の逃げ方上手だな」って思われるほうが誇らしいかもしれないですね。

松川:そういった相手のワクワク感が伝わってくると、こちらとしても対戦しがいがありますよ。対戦までに積み上げてきた力をすべて発揮するんだという興奮。それさえあれば、結果がどうあれ納得感を得られるんじゃないですかね。これまで名人・クイーンになってきた選手たちは、きっとつねにワクワクしながら対戦していたと思います。

(構成:苫とり子、後編に続く)

苫 とり子 フリーライター

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とまとりこ / Toma Toriko

岡山県出身。2019年4月にOLからフリーライターに転身「realsound」や「AM」に寄稿中。コラム記事やライブ、イベントレポートを得意とする。

 

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