人が感染症との戦いから永遠に逃れられない訳 私たちは幸運な子孫だが敵もそれは同じだ

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なにしろ微生物たちにとって、“敵”である人間が次々と打ってくる手は自らの生存を脅かす重大な危機なのである。つまり人間が必死に病気と戦うのと同じで、彼らもやはり戦っているのだ。

だから新たな薬剤が投入されれば、それに対する耐性を身に付け、強い毒性を持つ系統に入れ替わって戦うことになる。石氏はこれを「軍拡戦争」と比喩しているが、まさしくそのとおりである。

「あらゆる生物は、自己の成功率(生存と繁殖率)を他社よりも高めるために利己的にふるまう」という動物行動学者のリチャード・ドーキンスの「利己的遺伝子」説でみれば、人も微生物も自らの遺伝子を残すために、生存と繁殖につとめていることはまったく同じである。(「まえがき――『幸運な先祖』の子孫たち」より)

そして人間は遺伝子という、過去の遺伝情報が詰まった「進化の化石」を解明したおかげで、この軍拡戦争の実態や歴史に迫れるようになったということだ。

過密社会ならではの病疫

感染症は、人類が農業や牧畜を発明して定住化したときから脅威となってきた。定住化すれば過密な集落が発達するため、人同士あるいは人と家畜が密接に暮らすようになったことに端を発しているのである。

インフルエンザ、SARS、結核などの流行もそれにあたると石氏は記しているが、確かに現在の新型コロナウイルスにしても、まさに過密社会ならではの病疫であるといえる。

急増する肉食需要に応えるために、鶏や豚や牛などの食肉の大量生産がはじまり、家畜の病気が人間に飛び移るチャンスが格段に増えた。ペットブームで飼い主も動物の病原体にさらされる。農地や居住地の造成のために熱帯林の開発が急ピッチで進み、人と野生動物の境界があいまいになった。このため、本来は人と接触がなかった感染力の強い新興感染症が次々に出現している。(「まえがき――『幸運な先祖』の子孫たち」より)

しかも交通機関の発達により大量・高速移動が可能になったため、病原体もまた、時をおかずに遠距離移動ができるようになっている。なにしろ世界で年間10億人以上が国外に出かけ、日本にも1000万人を超える観光客が訪れるのだから。

ここでも、「天災」は「人災」の様相を強めているということだ。昨年12月以降、中国の湖北省武漢市から世界に広がっていった新型コロナウイルスにも、まったく同じことが言える。

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