なにしろ微生物たちにとって、“敵”である人間が次々と打ってくる手は自らの生存を脅かす重大な危機なのである。つまり人間が必死に病気と戦うのと同じで、彼らもやはり戦っているのだ。
だから新たな薬剤が投入されれば、それに対する耐性を身に付け、強い毒性を持つ系統に入れ替わって戦うことになる。石氏はこれを「軍拡戦争」と比喩しているが、まさしくそのとおりである。
そして人間は遺伝子という、過去の遺伝情報が詰まった「進化の化石」を解明したおかげで、この軍拡戦争の実態や歴史に迫れるようになったということだ。
過密社会ならではの病疫
感染症は、人類が農業や牧畜を発明して定住化したときから脅威となってきた。定住化すれば過密な集落が発達するため、人同士あるいは人と家畜が密接に暮らすようになったことに端を発しているのである。
インフルエンザ、SARS、結核などの流行もそれにあたると石氏は記しているが、確かに現在の新型コロナウイルスにしても、まさに過密社会ならではの病疫であるといえる。
しかも交通機関の発達により大量・高速移動が可能になったため、病原体もまた、時をおかずに遠距離移動ができるようになっている。なにしろ世界で年間10億人以上が国外に出かけ、日本にも1000万人を超える観光客が訪れるのだから。
ここでも、「天災」は「人災」の様相を強めているということだ。昨年12月以降、中国の湖北省武漢市から世界に広がっていった新型コロナウイルスにも、まったく同じことが言える。
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