お察しかと思うが、石氏は決してふざけたわけではない。それらの地に身を置いて長期間を過ごす以上、感染症を避けることはできないということなのだろう。
事実、ジャングルに張ったテントの中で高熱に悩まされ意識を失ったり、トイレに座ったきり一晩中動けなかったりと、相当な思いをされているようだ。つまりはそんな経験があるからこそ、本書を執筆できたのだとも言える。
現世人類の祖先がアフリカで誕生した約20万年前にまでさかのぼり、人類と微生物との関係を徹底的に検証したものである。
私たちは「幸運な先祖」の子孫
だが、そもそも感染症とはなんなのだろう? 気にはなっているものの改めて聞きづらくもあるこの疑問について、まずは考えてみよう。
石氏によれば、微生物が人や動物などの宿主に寄生し、そこで増殖することを「感染」といい、その結果として宿主に起こる病気のことを「感染症」と呼ぶ。
ほかには、「伝染病」「疫病」「流行病」などの呼び名を目にすることもあるだろう。しかし現在では、農業・家畜関連を除き、公的な文書や機関名では感染症にほぼ統一されたのだそうだ。
ところで石氏は現代に生きる私たちのことを、“過去に繰り返されてきた感染症の大流行から生き残った、「幸運な先祖」の子孫”であると表現している。
しかも、単に幸運を享受しただけではない。上下水道の整備、医療施設や制度の普及、栄養の向上など、さまざまな対抗手段を生み出すことによって、次々と生まれてくる感染症と戦ってきたからこそ“いま”があるのである。
ところが問題は、それでも感染症が収まらないということだ。その原因のひとつとして、私たちには忘れていたことがあると石氏は指摘している。
そういう意味では、いたちごっこだという表現を用いることもできるだろう。とはいえ、考えてみればそれは当然すぎる話でもある。
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