人が感染症との戦いから永遠に逃れられない訳 私たちは幸運な子孫だが敵もそれは同じだ

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事実、石氏は終章において、今回の騒動を予言するかのような記述をしている。

今後の人類と感染症の戦いをするうえで、もっとも激戦が予想されるのがお隣の中国と、人類発祥地で多くの感染症の生まれ故郷でもあるアフリカであろう。いずれも、公衆衛生上の深刻な問題を抱えている。
とくに、中国はこれまでも、何度となく世界を巻き込んだパンデミックの震源地になってきた。過去3回発生したペストの世界的流行も、繰り返し世界を巻き込んできた新型のインフルエンザも、近年急速に進歩をとげた遺伝子の分析から中国が起源とみられる。(「終章 今後、感染症との激戦が予想される地域は?」より)

ご存じのように中国の発展は著しく、経済力の向上にともなって13億4000万人を超える人口が国内外を盛んに動き回れるようになってきた。今回の騒動でも話題になったとおり、春節(旧暦の正月)前後にはのべ約3億人が国内を旅行し、年間にのべ1億人が海外に出かける。

上の画像をクリックすると、「コロナショック」が波及する経済・社会・政治の動きを多面的にリポートした記事の一覧にジャンプします

したがって、急速に増えた大移動が、国内外に感染を広げる下地になっているということだ。

だからといって、それを差別的な感情に結び付けるのは望ましくない。石氏もまえがきに書いているが、地球に住んでいるかぎり、地震や感染症から完全に逃れることはできないのだから。

感染症は今後も影響を与え続ける

地震は地球誕生からつづく地殻変動であり、感染症は生命誕生からつづく生物進化の一環である。14世紀のペストといい、20世紀初期のスペインかぜといい、感染症は人類の歴史に大きく関わってきた。今後とも影響を与えつづけるだろう。(「まえがき――『幸運な先祖』の子孫たち」より)

地上最強の地位に登り詰めた人類にとって、微生物はほぼ唯一の天敵だ。

『感染症の世界史』(KADOKAWA)。書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします

しかし同時に、私たちの生存を助ける強力な味方でもあると石氏は言う。

だからこそ本書では感染症を通じ、その絡み合った歴史を環境史の立場から解説しているわけだ。

その考察は奥深く、時に難解でもあるが、ここに書いてきたような人類との“関係性”をも再確認させてくれる。

連日続く報道にただおびえるだけでなく、しっかりとした知識を身に付けるために、読んでみて損はない。

印南 敦史 作家、書評家

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いんなみ あつし / Atsushi Innami

1962年生まれ。東京都出身。広告代理店勤務時代にライターとして活動開始。「ライフハッカー・ジャパン」「ニューズウィーク日本版」「サライ.jp」「文春オンライン」などで連載を持つほか、「Pen」など紙媒体にも寄稿。『遅読家のための読書術――情報洪水でも疲れない「フロー・リーディング」の習慣』(PHP文庫)、『いま自分に必要なビジネススキルが1テーマ3冊で身につく本』(日本実業出版社)『「書くのが苦手」な人のための文章術』(PHP研究所)、『先延ばしをなくす朝の習慣』(秀和システム)など著作多数。最新刊は『抗う練習』(フォレスト出版)。

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