ビッグデータをどうビジュアル化すべきか 企業価値を上げる映像コンテンツ3つのポイント(下)
感動的映像の背景にあるビッグデータ分析
さて、今回、こちらの映像において注目してほしい最初の点が、主人公である息子と、その母だ。今回のキャンペーンはブリティッシュ・エアウェイズによるものだが、英国在住ではなく、ニューヨーク在住のインド人と、インドに住む彼の家族だ。インドがイギリスの旧植民地であることから、イギリスにおけるインド人コミュニティの存在は非常に有名であるが、アメリカとなると今いちピンとこない人もいるかもしれない。また、航空会社もアメリカの航空会社ではなく、ブリティッシュ・エアウェイズだ。では、何ゆえブリティッシュ・エアウェイズとアメリカなのか。答えはビッグデータだ。
ブリティッシュ・エアウェイズは、アメリカ国内におけるマーケットシェアの伸び悩みという課題を抱えていた。イギリスやヨーロッパにおいては、「イギリス国旗を掲げたエアライン」として高い認知度を誇っている。イギリス人にとっては、親しみやノスタルジアさえも感じさせるブランドだ。しかしアメリカでは、米系エアラインと比べると知名度が低く、さらにはマーケティングに活用できるメディア予算も限定されていた。そこで、その課題を解決するために、ビッグデータの活用に打開策を求めた。
オグルヴィ・アンド・メイザーは広告会社であるが、グローバル・データ&アナリティクス(分析)の専門チームを持っている。このニューヨークのチームが米国におけるブリティッシュ・エアウェイズのすべての就航都市における座席利用率、旅客1人当たりの1マイル当たりの売上高、座席数をセグメントを横断的に分析した。その結果、アメリカ発インド行きの便を利用する「VFR」と呼ばれる客層に、シェア拡大の大きなポテンシャルがあることが判明した。「VFR」とは、Visit Friends and Relativesを意味し、友人や家族を訪ねる旅行者を指す。インド行きの便においてはエミレーツ航空、カタール航空、ジェット・エアウェイズといった競合航空会社が存在感を増しており、同社はマーケットシェアを下げていた。そこで、ビジネス目標として、アメリカ発インド行きのVFR客層のマーケットシェアの拡大が戦略目標として設定されたのである。もちろん、セールスデータなどの分析によって、これまでにも課題路線を判別することは容易にできていたはずである。が、本キャンペーン戦略立案におけるデータ分析は、課題路線を明確にすることに限定されることではなく、課題を解決するためのマーケティング戦略立案、および具体的マーケティング・コミュニケーション・プランだった。
エモーショナルなタッチポイントを特定
アメリカに住むインド人にとって、故郷への旅は長く、体力を消耗し、感情的にも複雑なものだ。出発から到着まで簡単に24時間を超えてしまう長旅である。さらには大家族での旅となれば、少しでも多くのお土産を持って帰りたいという気持ちも助けて、抱えきれないほどの大荷物となってしまうものだ。
しかし、それでも故郷への旅とは、幸せに満ちたビッグイベントであろう。金銭的理由から、多くても1年に1度しか故郷へ戻れない人が多い。だからこそ感情は募り、里帰りには特別な思いが込められていた。
そこで、エクゼクティブクラブの顧客データと予約データを分析し、ターゲットであるVFR客に接触するのに最適の時間を特定した。さらに、このデータに定性調査を重ね合せ、より強く訴えかけることが可能となるタッチポイントを導き出した。
ほとんどの顧客は、航空会社を検討する際に、「東洋系キャリア」と「西洋系キャリア」に分けて考えていることが判明した。エアー・インディア、エミレーツ航空、ジェット・エアウェイズなどは東洋系キャリアに属し、アメリカン航空、ルフトハンザ航空、そしてブリティッシュ・エアウェイズは西洋系に属する。独自の調査によれば、東洋系キャリアは、インド人ならではの要求を配慮していると認知されているという。一方で西洋系キャリアは、信頼できる一方、顧客の文化や旅の目的に対する理解は少なく、むしろ冷たい印象があるということがわかった。
つまり、ブリティッシュ・エアウェイズが東洋系キャリアと競合して勝ち抜くことは簡単ではない。しかし、もしターゲットとなるオーディエンスについて深く理解していることをアピールできれば、直接の競合となる西洋系エアラインから、より多くのシェアを獲得できるかもしれない。インドを故郷に持つVFRフライヤーという顧客層の心に訴えかけるためには、彼らにとって旅の最大の目的である「故郷」「母」「家族」について何よりも理解し、これらのキーワードを形にして表現する必要があったのだ。
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