コロナショックが招く「経済危機」最悪シナリオ 需要、供給、金融を揺さぶり悪循環に入るかも

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アジア通貨危機の当時と比べると、現在の経済環境はコロナショック前には比較的落ち着いていたものであると観察されます。経常赤字の規模、外貨準備の規模、経済成長率、インフレ率など、国としての脆弱性を表す経済指標を見ると、インドネシアを含めてほとんどの国で大きな改善が見られていました。

その一方で、実際にアジア通貨危機を現地で経験した私にとっては、2018年後半にかけて通貨ルピアが下落したインドネシアの動向は大いに気になりました。それは、同国では近年また経常赤字が拡大しており、ヘッジファンドなどの標的になりやすいからでもあります。また米中新冷戦の中で、インドネシアが米中双方のサプライチェーンに深く組み込まれていることも懸念材料でした。このような状況において起きたコロナショックは感染拡大が収束することに時間を要すると要注意ポイントになってくるのではないかと思います。

実は、私自身がアジア通貨危機の際に現地で経験した周辺国が陥った経済危機へのプロセスが、「新興国からの資金流出→銀行危機→信用収縮→流動性危機→経済危機」だったのです。ヘッジファンドの標的になったことを契機として現地通貨の為替レートが大幅に切り下がり、米ドル建て債務の実質的な負担が増大、同時に海外の投資家が資金を引き揚げたことから地場銀行は資金調達難となり企業は信用収縮を受けて資金繰り難に陥りました。さらには市場全体の流動性が枯渇し、これらが全て重なり合って経済危機へと突入していったのです。

レバレッジが逆回転する?

この時に起きていたことの一つが、「負のレバレッジ」、あるいは「逆レバレッジ」と呼ばれる現象です。借入によって自己資本による投資の収益率を増大させていた「レバレッジ」が、上記のような金融・経済リスクの顕在化によって反転し、リターンではなくリスクや損失を拡大させたのです。

レバレッジに係るリスクは、さらに、流動性リスクや資金調達そのもののリスクとも高い相関関係を有していることにも注意が必要です。これは、マーケットが混乱したような場合において、当該マーケットでの投資対象の流動性が急速に低下、資金の出し手が突然方針変更し、資金を引き揚げるという行動を取ることが 頻繁に観察されているからです。このような場合、レバレッジをかけていた取引はリファイナンスが困難となるばかりか、資金の出し手から投資対象の売却をも迫られ、マーケット全体が悪循環に陥るケースも少なくないのです。そしてこの現象が今回のコロナウイルスによって引き起こされないかを注視することが必要なのです。

今回はコロナショックのリスクシナリオについて考察してきましたが、最後に、コロナウイルス感染拡大が少しでも早期に収束することを心から祈るとともに、企業や組織の危機管理の一環として、いくつかのリスクシナリオを想定しておくこと、それぞれのシナリオが起きた時にどのような戦略や対応を取ることが適切か予め検討しておくことの重要性を強調しておきたいと思います。

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今回のような非常事態における危機管理として重要なことは、悲観的シナリオ・最悪シナリオに対して目を背けるのではなく、むしろそのようなシナリオに対峙し、準備を進めておくことなのです。次回は、これらのリスクシナリオに対してマクロ的に国家ができること、ミクロ的に企業ができることなどについて論考していきたいと思います。

田中 道昭 立教大学ビジネススクール教授

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たなか みちあき / Michiaki Tanaka

シカゴ大学経営大学院MBA。専門は企業戦略&マーケティング戦略およびミッション・マネジメント&リーダーシップ。三菱東京UFJ銀行投資銀行部門調査役、シティバンク資産証券部トランザクター(バイスプレジデント)などを経て、現在は株式会社マージングポイント代表取締役社長。主な著書に『「ミッション」は武器になる』(NHK出版新書)、『アマゾンが描く2022年の世界』(PHPビジネス新書)、『GAFA×BATH 米中メガテック企業の競争戦略』(日本経済新聞出版社)など。

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