アフリカの銀行員が、国境線に座り込むワケ どこにもない市場データを、どう探し出す?

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何をするのかと思いきや、社長は、市場の小売店(日本のユニットバスくらいの大きさの小さなキオスクです)を10軒くらい回って、「ウチの商品、先月と比べてどのくらい売れてる?」とか、「他社の商品がどのくらい棚に並んでいるのかな?」などと話しながら、お店を見ていきます。

それを見た僕は、「ちょっと待ってください、こんなの単なるサンプル調査で、市場全体のデータとはズレてるかもしれませんよね。なんでもっとちゃんとやらないのですか?」と文句を言いました。

社長は言いました。「経営の意思決定をするのに、100%正確な詳細データは本当に必要なのかい? こうやって自分の足で調べて、7割くらい正しいなあ、という大まかな推測ができたら、それで動けばいい。もし疑うのなら、君がこれから、ダカール中の小売店を回ってインタビューしてみなさい。きっと、今10軒の小売店にインタビューしたのと、ほぼ変わらない結果が出るよ」

ぐうの音も出ませんでした。情報は足で稼ぐしかない、と腹をくくりました。

ところが、次の一手で、僕はまたもや失敗をしてしまいます。情報を集めるからには、よりきっちりしたデータをと、複数の青空市場を回って、食品を取り扱う卸売業者や、小売店に、アンケート調査をかけようと思ったのです。売れ行きや、なぜこの会社の製品が売れるのか、といったアンケートを100個くらい集めれば、それなりに正確なデータが積み上がるはずと、意気揚々と臨んだのです。

地道なインタビューの思いがけぬ効果

が、フタを開けると、アンケートを返してくれたのは、ほんの数軒のお店だけでした。大半のお店は、「ん、そんなアンケートあったっけ? 忙しいからまたにして」とけんもほろろ。前回の記事でも書きましたが、西アフリカは口承文化の地域。紙に書いたものなんて、誰も興味を持たないし、当然、返事などくるはずもなかったのです。

結局、僕は社長の言うとおりにすることにしました。市場に行って、店の人たちと世間話をしながら、地道にインタビューすることにしたのです。

時間ばかりかかって、たいした情報が集まらないのでは……という予感は裏切られました。意外にも、この手法はきわめて効果的だったのです。

市場シェアも小売店を回って棚を見れば、大体のことが把握できる

確かに、初めは大した発見がないまま時間が過ぎていきました。しかし、丸1日市場に座りこんでいると、「ああ、この商品は完全な値段勝負だなあ」とか、「これはプロのレストラン向けの高品質商品だなあ」などなど、競合企業に対する競争優位・不利を理解するうえでの、ヒントが見えてきたのです。銀行員が企業分析をするうえで不可欠な情報が、リアリティを伴った形で集まってくるのですから、これほど、有意義なことはありません。

市場シェアについても、小売店を回って、シェルフ・スペース(お店の棚にどんな商品がどのくらいの割合で置いてあるか)を確認すれば、だいたいのことがわかってきました。そのうえで、クライアントと競合企業の工場、両方の生産能力を調べ、手元にある市場シェアの数字と整合するか裏を取るようにしました。こうして、データがない中、僕なりに市場シェアを割り出せるようになったのです。

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