――岩田教授は2月18日、クルーズ船内部の状況についての動画をYouTubeで公開しました。ウイルスのない「グリーン・ゾーン」とウイルスが存在して感染の危険がある「レッド・ゾーン」が「ぐちゃぐちゃになっていた」と。改めて、課題は何だったのでしょうか。
クルーズ船というのは閉鎖的な空間にたくさんの人がいて、おまけに高齢者が多い。非常に感染しやすく、リスクも高い。感染症対策上は下船させることが正しくても、実際には周辺の医療機関にそれだけの受け入れキャパシティーがなければ、ただ下船させるというわけにはいかない。そこが最初のジレンマになる。
そのジレンマの中で、感染リスクが高いクルーズ船の中に14日間とどめ置いて検疫をするという判断を日本はした。その判断が間違っていたのかどうかわからないが、そういう選択をしたのであれば、船の中の感染対策は完璧にする必要があった。
しかし、感染症の専門家がしっかり入ってオペレーション(運営)をするのではなく、感染対策のプランは官僚主体でつくったものになっていた。専門家は結局、少し入っただけだった。日本環境感染学会の専門家も入ったが、結局はすぐ撤退してしまった。
入れ替わり立ち替わり専門家が入っているが、専門家がリーダーシップをとった対策づくりができていなかった。
官僚は二次感染の現実を直視できなかった
――下船した乗客の感染が後になって判明したり、作業に当たっていた厚生労働省の職員や検疫官に感染者が出たりしました。
14日間の検疫期間中に、乗員・乗客同士での二次感染はおそらく起きていた。そうした懸念があったので、アメリカやカナダ、韓国、イスラエルなどは、下船した人たちを自国の施設でさらに2週間、追加で隔離した。
ところが日本は、「14日間検疫やったからいいじゃないか」ということでそのまま下船させてしまった。検査が陰性になったので下船を許可したわけだが、検査結果そのものが間違いだったので、後で発症してしまう人が出た。下船後、スポーツクラブに行った人の感染がわかり、臨時休館せざるをえなくなった。周辺の人の検証もしなくてはならなくなり、混乱が起きた。
つまり、官僚にありがちな「自分たちの立てたプランは完璧だ」「完璧でなければいけない」という自己暗示をかけてしまい、自分たちは間違っていないという物語を信じてしまった。二次感染が起きているかもしれない、という現実を直視できなかった。
私がYouTubeに動画をアップした翌日の2月19日に、国立感染症研究所が感染者数の推移を公表した。そこで新しく感染がわかった乗客の数が減っていたが、それがまだ中間報告だということを官僚は理解していなかった。
つまり、「現段階であれば二次感染が起きていないように見える」ということを「これからも起きないだろう」という話に勝手に置き換えてしまった。自分たちの作った物語に準ずる楽観的なデータを採用してしまった。
結局何も対策をせずに下船させてしまい、後から問題が発覚したので慌てて健康監視を始めた。それは遅かった。
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