「情熱大陸」が描く“ヒトの素顔”の裏側 情熱大陸プロデューサー福岡元啓氏に聞く

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1200人の企画書から50人を選び出す

――密着する人はどのように決めているのですか。

人を選ぶ基準は、「今、旬であるか」「今、見るべき人、見てほしい人であるか」です。テレビは、映画や本と違い、「瞬間芸」だと思うのです。「今、見たい」と思ったときに見せられるかどうか――。

だから、歌舞伎役者の片岡愛之助さんの場合は、ドラマ「半沢直樹」放送直後に放送すべく1カ月の密着で作りました。昨年放送したところでいうと、檀蜜さんや林修さんなども2カ月程度の短期間の密着で作りました。

その一方で、人に密着するドキュメンタリー番組なので、1年以上密着しているケースもあります。たとえば、農業家の三浦雅之さん、ジャーナリストの石丸次郎さんなどがそうです。今は、20本ほど同時並行で撮影しているので、短期的に一気に撮影するものと長期的にじっくり撮影するものの両輪で動いています。

――数多くの企画書が送られてくるそうですね。

企画書は月に100本程度、年間にすると1200本近くの企画書が送られてきます。それは僕が興味のある人をリサーチするケースもありますが、40社近い制作会社から提案されることが多いです。1200本、すべてに目を通すのは大変ではないですか、と聞かれるのですが、情熱大陸の企画書は突き詰めれば、シンプルなんですよ。「誰を」「どのように撮るか」。企画書のフォーマットは特に設定をしていないのですが、たくさん文章を書いてきても、イラストや色を使ってきれいに見せても、結局はそこに尽きるのです。

――その中には、芸能人やスポーツ選手のような有名人だけでなく、知る人ぞ知る人もいます。その人はどこを見て決めるのですか。

たとえば、寿司職人の工藤順也さんは、料理人に詳しい制作会社からの提案ですが、企画に「ゴー」を出す前に一度、お店で食事をしました。僕は食通ではありませんが、お店に行って、仕事ぶりを見ればわかることは多いです。直接、自分で見に行くことは大事なんですね。

いい取材者は必要なときに「ナイフ」を突き付けられるか

――多くのディレクターとお仕事をされていますが、いいディレクターと悪いディレクターの違いは?

ゴールデンボンバーには「ナイフ」を突き付けた

いいディレクターは、被写体になる人との関係性がいいですね。そして、「この人の何を撮るのか」という狙いがしっかりしていますね。密着取材はお互いがものすごく疲れるんです。だから、カメラを回す“頃合い”が上手な人は優秀だと思いますね。あれもこれも撮影する人は被写体も「何を撮りたいのだろうか」と不安になったりしますから。情熱大陸の場合、取材するディレクターは、カメラを回すことが仕事ではなく、カメラを回さないときに「狙い」を決めたり、被写体と仲良くなったりすることのほうが重要なのかもしれません。

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