なぜ楽天の携帯は「1年間無料」を打ち出すのか "消費者心理"を実に巧みについている

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誰でも経験があるだろうが、ケータイの手続きは何かと大変だ。ショップはいつも混んでいるし、提示されたプランを選ぶのも面倒で、なるべくストレスなく、現状をあまり変えずに淡々と使い続けたい。

家族割も利用しているし、ポイントもたまっている。今のままでとくに困ってはいない。それなのに、変えることで不都合が生じたら面倒だ――そうした「現状維持バイアス」という心理が、約8000万人のドコモユーザーを積み上げてきたとも言える。

現状維持バイアスがどれだけ威力があるかわかっているので、ケータイ各社は例年、春先に「学割キャンペーン」を行う。学生時代に最初に自社のサービスを選んでもらえたら、現状維持の心理が働いて、一定数がそのまま使い続けてくれると期待できるからだ。

同じことはクレジットカードの世界でも行われ、学生向けや新社会人(20代向け限定など)向けカードにはポイント優遇など、オトク感を強めた新規加入キャンペーンを行うことが多い。学生時代、あるいは社会人になって最初に作ったクレジットカードをそのままずっと使っている人は多いはずだ。最初に選んでもらうことがどれだけその後の勝負を分けるか、事業者はよくわかっている。

「まず使わせる。そして続けさせる」ための無料戦略

こう考えると、楽天としては無料をエサに300万人を集め、1年間使わせる間に、さまざまなメリットを打ち出し続けるのではと推察する。楽天は、2021年3月までに自社回線エリアをさらに増やし、データ使い放題を享受できる範囲を広げる考えだ。

そうするうちにユーザーの日常に楽天のケータイサービスがなじんでくれればしめたもの。現状維持バイアスにより、1年後にもそのまま使い続けてくれる、一定の利用者がキープできるだろう。そのための「1年間無料」だとすれば、短期間では損をしても、長期間にわたって収益を生む種になってくれる。

こうした手法のカラクリを、われわれユーザーも知っておかなくてはいけない。「無料ですから」といって気軽に手を出したのはいいが、その後見直しすることなく、そのモノやサービスを継続して使っているものが、いろいろあるのではないだろうか。

入り口(=契約)は広いが、出口(=解約)はやけに狭いという例はいくらでもある。「無料」の文字を見たら、それも思い出してほしい。

とはいえ、楽天のキャリア参入が価格競争につながり、われわれ携帯ユーザーにプラスに働くならば大歓迎だ。4月8日のサービスインを期待を込めて待ちたい。

松崎 のり子 消費経済ジャーナリスト

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まつざき のりこ / Noriko Matsuzaki

20年以上にわたり『レタスクラブ』『レタスクラブお金の本』『マネープラス』などのマネー記事を取材・編集。家電は買ったことがなく(すべて誕生日にプレゼントしてもらう)、食卓はつねに白いものメイン(モヤシ、ちくわなど)。「貯めるのが好きなわけではない、使うのが嫌いなだけ」というモットーも手伝い、5年間で1000万円の貯蓄をラクラク達成。「節約愛好家 激★やす子」のペンネームで節約アイデアも研究・紹介している。著書に『お金の常識が変わる 貯まる技術』(総合法令出版)、『「3足1000円」の靴下を買う人は一生お金が貯まらない』(講談社)、『定年後でもちゃっかり増えるお金術』(講談社)。
【消費経済リサーチルーム】

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