上院の弾劾裁判で、同教授は「公共の利益」論を持ち出した。トランプ大統領が、政治的ライバルであり、大統領選に出馬を予定しているバイデン前副大統領を撃退しようという気持ちがあったとしても、そのことが、アメリカの利益になると大統領が判断していた場合、大統領を弾劾することはできないと明言したのである。この「公共の利益」論は、アメリカ大統領の弾劾裁判を巡って、将来にわたって先例的な法的価値を持つことになる。
具体的には、バイデン氏はバラク・オバマ前大統領に単独担当を任じられてウクライナに赴任した。息子のハンター・バイデン氏の金融スキャンダルに関して、息子に有利になるように政治的に動いたことは、大統領から任じられた行政上の義務と矛盾し、任務違反の可能性がある。共和党議員の中には、「国家安全保障上の義務違反」と批判する向きもある。その点をトランプ大統領が追及することは当然であり、ダーショウィッツ名誉教授の法解釈によれば、明らかに「公共の利益」となるからだ。「反トランプ」メディアは、その点を見過ごしている。
ギャラップ調査によると、上院の弾劾裁判勝利が決まった時点で、トランプ大統領の支持率は49%に上がった。大統領就任以来最高の支持率だ。同時に、自らを共和党支持と考えるアメリカ国民が48%となり、それに対して、民主党支持は44%という結果となった。オバマ政権の絶頂期、民主党支持者の割合は60%を軽く超えていた。
トランプ政権になってから徐々に減ってきていると、「反トランプ」メディアのCNNテレビでさえ報じていたが、よもや共和党支持の割合に逆転されてしまうとは驚くべき現象と言っていい。
ブティジェッジ候補「失言」の意味するもの
ここで注目したいのは、選挙戦撤退を表明したピート・ブティジェッジ候補の存在だ。彼は稀代の雄弁家として一躍名を上げ、民主党候補指名争いでは、アイオワ州で1位、ニューハンプシャー州で2位になった。アイオワ州では、エリザベス・ウォーレン候補に代表される、経験豊かな女性上院議員たちから、多くの女性票を奪ったとされる。
そのブティジェッジ氏は、民主党支持者を前にした演説集会で、「弾劾を巡る議論をテレビ中継で見ていると、チャンネルを変えたくなるのでは……」と、口を滑らせた。
この皮肉な発言に対して、エイミー・クロブシャー候補による批判を中心に民主党議員から怒りの声が上がった。その批判は当然としても、そういう「失言」が、雄弁家のブティジェッジ氏の口から飛び出したことは、皮肉にも、民主党支持者の現在の心情を見事に言い当てているのではないか。
トランプ大統領は、ブティジェッジ候補に対しては、珍しく、批判らしい批判をしなかった。その理由として考えられるのは、トランプ大統領弾劾について、民主党候補者の中で、真っ先に強く主張したのがウォーレン候補であり、その天敵のような存在がブティジェッジ候補だったという判断もあったのだろう。
ウォーレン候補が、トランプ大統領弾劾を主張したのは、ウクライナ問題がまだ起きていないときだった。ロバート・ミュラー特別検察官時代のロシア疑惑を巡る問題が、トランプ弾劾の最も重要な論拠であり、それがウォーレン候補の弾劾論理でもあった。
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