宅配業者がドライバーの「独立支援」を急ぐ事情 佐川、ヤマトからドライバー流出のケースも

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多くの自社ドライバーと物流拠点を抱え全国配送網を構築する大手宅配は、その維持に莫大なコストがかかる。そのため、配送単価を引き下げて荷物を確保することは難しい。

ヤマトホールディングスは4月から提供を始めるEC事業者向け配送サービスについて、「低価格で配送を請け負うのではなく、あくまで適正なプライシングでサービスを提供していきたい」(ヤマトホールディングスの長尾裕社長)とする。大手宅配は配送単価を下げないためにも、接客面やサービス面での差別化を図るが、確たる強みとなるものはまだ打ち出せていない。

大手宅配が利益確保に躍起になるあまり、委託ドライバーを支援するどころか、ドライバーに支払う配送単価を引き下げる動きもあるようだ。以前は大手宅配会社の委託ドライバーだったある男性は、2019年初めに配送単価を引き下げられたことをきっかけに中堅運送会社の支援制度に応募した。「大手宅配の配送受託は単価や荷物量が安定しないため、安心して働きにくい」と、男性は強調する。

大手宅配から人材流出の動きも

最近は、大手宅配から流出する委託ドライバーも出てきている。丸和運輸機関の藤田勉取締役は、「当社が契約している委託ドライバーの半数以上は、大手宅配の業務委託経験者だ。大手宅配で配送単価引き下げや『外注切り』があると、当社の独立開業支援への応募者が急増する」と明かす。

中堅運送会社は配送効率のよい都市部に限って配送サービスを提供し、大手宅配会社よりもコストを抑えてきた。より多くの荷物を獲得するための取り組みも着々と進めている。SBS即配サポートは2月から一部エリアで、BtoBとBtoCのどちらの荷物も運ぶ混載配送を開始し、中小EC事業者の小ロット荷物の獲得を狙う。丸和運輸機関はこれまで強みとしてきた北関東エリアだけでなく、神奈川県など南関東エリアでの展開も見据える。

両社ともに価格競争力を武器に、今後さらに攻勢をかけていくようだ。ただ、ドライバー確保の競争が激化する状況で、手厚い支援で囲い込み続けるにはコストも増え続けることになる。十分な採算性を維持したまま成長していくことができるのか。勝負が本格化するのはこれからだ。

佃 陸生 東洋経済 記者

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つくだ りくお / Rikuo Tsukuda

不動産業界担当。オフィスビル、マンションなどの住宅、商業施設、物流施設などを取材。REIT、再開発、CRE、データセンターにも関心。慶応義塾大学大学院法学研究科(政治学専攻)修了。2019年東洋経済新報社入社。過去に物流業界などを担当。

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