若者が得たセックスの自由は大事にしていい 湯浅誠×瀬戸内寂聴 リベラル対談(後編)

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──湯浅さんが変わったきっかけ、ターニングポイントはどこにありますか。

湯浅:自分では自然に生きてきているつもりなので、ターニングポイントは正直、よくわからないのですが、子どもの頃までさかのぼると、やっぱり兄貴が身体障害者だったというのはあるかなと思います。

私が小学生ぐらいのときから兄貴は車いすで、私はよく兄貴が乗った車いすを押して歩いたのです。1970年代、今から40年前は車いすで外を歩いている人は珍しく、けっこうジロジロ見られました。

あのジロジロ見られるというのは嫌なものでね。子どもだったから言い返すこともできない。変に引け目を感じちゃうし、このヤロウっていう怒りもあるし、悲しい気持ちも悔しい気持ちもある。すごく複雑な思いをさせられるんですよ。何でこんな目に遭わなきゃいけないんだっていう不条理を感じる。

また、兄貴がとても引っ込み思案だったので、人に見られるのを嫌がって、とにかく人のいないところを歩きたがるのです。これもまた、わかるような気もするし、もっと堂々としろよっていう感じもあるし、とても複雑な気持ちを引き起こすのですが、今、考えたら、やっぱりああいう経験があったのはよかったと思います。

瀬戸内:貴重な体験ですよ。

湯浅:小学生の私がひとりで町を歩いていたって、普通は誰もジロジロ見ませんからね。ジロジロ見られるって、こういうことなんだとわかったので、今は兄貴に感謝しています。

瀬戸内:人間って想像力がないとダメなんですね。想像力は限度がありますから、自分が経験しないことはわからないですよ。貧乏も経験しないとわからない。体の丈夫な人は体の弱い人の悲しみがわからない。失恋したことのない人は失恋した人の苦しみがわからない。だから、お金持ちの家に生まれて、健康優良児、そんな人は友達にしないほうがいいと私は思いますね。

湯浅:(笑)でも寂聴さん、経験していないことも想像しようとする努力は大事じゃないですか。

瀬戸内:だけど、だいたいそういう人は想像力がないですよ。やっぱり苦しむから想像力が育まれるのでね。なぜ自分はこんな苦しい目に遭うのかとか、なぜジロジロ見られるのかとか、経験しないとわからない。だからいろんな苦しみを味わった人、それから体の弱い人のほうが優しいです。友達はそんな人がいい。兼好法師(吉田兼好)もそう言っています。

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