「ダウン症の娘」を伝える授業で心に響く真実 福岡で元教諭の体験談が感動呼び700回以上に

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ーー例えば、どんな反応が?

その場で思いを伝えてくれたり、感想を書いてくれたり、本当にいろんな反応があります。例えば、授業では録音した梓の声を聞いてもらうのですが、みんなほぼ聞き取れない。でも、2回目は私が梓役になって身振り手振りをつけると「初めは全然聞き取れなかったけど、それは梓さんの言葉をどうせわからないと僕が聞こうとしていなかったからでした。一生懸命聞いたら、梓さんの言葉がわかりました」と言ってくれた子がいました。

「障害者はかわいそうと思っていたけど、障害があるなしに関係なくお互いに支え合って生きているんだなと感動しました」と話す子や、「これまで障害者に差別用語を使ってたけど、もう絶対使わない」と書いてくれた子も。

荒れた中学校で先生から「話を聞かない奴」とレッテルを貼られていた男子は、私の話が終わるとやってきて、「やべー、まじ泣きそうだった」と目に涙を浮かべて伝えてくれました。その後、その男子から手紙も届きました。「人の話とか聞かんでいいと思いよったけど、来てくれてありがとう。本当に本当にありがとう」と。子どもたちの感想にはいつも心が震えます。

ほかにも、中学1年で私の授業を受けた子たちが3年生になったとき、障害のある同級生をみんなでサポートして一緒に組体操をしたというエピソードも聞きました。

ーー障害者のご家族が聞かれることもあるのでは。

そうなんです、「弟が特別支援学級にいて、嫌だなと思っていた私はダメなお姉ちゃんでした。これからは弟に優しくしたい」と泣き出した子がいたし、支援学級の保護者から「子どもを産んでよかったと今日初めて思いました」と言われたこともあります。

ひとりでも多くの人に障害や命の大切さを知ってほしい

ーー是松さんはなぜ早期退職されたのでしょう?

実は59歳のときに脳腫瘍が見つかり、「これが大きくなると早ければ2年以内に失明、手術をしても失明や下半身不随のリスクがある」と言われたんです。それで定年を待たず3月に退職。その数か月後、ちょうど60歳の還暦の誕生日に相模原事件(相模原市の知的障害者施設で入所者19人が殺害された事件)が起こり、講演活動に力を入れようと決意を新たにしました。

ーー脳腫瘍が見つかったとき、やはり梓さんのことが浮かびました?

えっと、正直に話しますと、医師にまず聞いたのは「あの……お酒は飲めますか?」(笑)。「あ、はい、大丈夫です」と苦笑されて、大喜びしたのを覚えています。あはは、お恥ずかしい話ですね。

是松いづみ(これまつ・いづみ)/福岡こども短期大学専任講師。西南学院大学法学部に在学中、子どもと関わる活動をきっかけに教員を志し、通信教育で学び小中学校教諭の免許を取得。元小学校教諭。2002年より小学校から大学、職員研修、PTAなどで授業や講演を行う。様々なエピソードと共に、梓さんが成長していく姿を紹介している(筆者撮影)

ーーその明るさがご家族を支えているのでしょう。

私たち夫婦は確実に年を取っていきます。脳腫瘍が見つかったことをきっかけに、信頼できる素敵な施設を見つけて、定期的なショートステイを始めました。

ーー今は福岡市で生まれた子の10人に1人が、発達に関して公的機関に相談に来ているというデータもあります。

障害は、誰もがなり得ます。誰にでも人と違うところや苦手なことがあります。どこまでが健常でどこからが障害という線引きも曖昧だと感じています。

それなのに、現実として差別はなくならず、障害のある人に会うと戸惑ってしまう気持ちも理解できます。だって、障害者のことを知る機会がないから。

私の話を通して「障害」を捉え直し、「仲間」「家族」「生き方」に思いをはせてほしい。そして今の自分に気づき、なりたい自分を見つけてもらえるとうれしいです。しかめっ面な社会の空気が少しでも柔らかくなるように願っています。

佐々木 恵美 フリーライター・エディター

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ささき えみ / Emi Sasaki

福岡市出身。九州大学教育学部を卒業後、ロンドン・東京・福岡にて、女性誌や新聞、Web、国連や行政機関の報告書などの制作に携わる。特にインタビューが好きで、著名人や経営者をはじめ、様々な人たちを取材。

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