飲食店「店員同士の恋愛」が時に危険招く理由 準備不足の出店やひとりよがりも失敗要因

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このお店はそのままでは危険だったので、お客様の入店時にはあえて「っしゃいませ〜!」とぶっきらぼうに声をかけるようにしてもらい、服装も白衣から黒いTシャツへ変更。椅子を引くサービスなども即座にやめてもらい、店主にはカウンターから出ないようにしてもらった。そうしたら、危険な状態から一気に回復。いまでは繁盛店に変わっている。

どんなに店主がいいサービスだと思っていても、お客が求めているものとずれていては、その飲食店は長く存続できないのだ。

店内恋愛を管理できない店は危ない

飲食店は働く人とお客、あるいは働く人同士の距離が近い職場であるため、そこに恋の華が咲くことも少なくない。

それ自体は誠に結構なことで、非難されるべきものでもないが、飲食店の経営者からすると、実はあまり歓迎できないことも多い。

なぜなら、そのお店の売り上げのかなりの割合を、お客に人気のスタッフが1人で稼ぎ出している、というようなケースがよくあるからだ。こうした状態で、そのスタッフが店内の色恋沙汰の結果、気まずくなって辞めてしまうようなことになったら大変だ。

実際、特にスタッフ同士の恋愛で何かトラブルがあると、大抵は片方が辞めてしまう結果となるため、恋愛は個人の自由だからと放置することは危険だ。

中でも注意すべきなのは、既婚男性のスタッフと女性スタッフの不倫問題。女性側が若い女性であれば、経験豊富な男性社員スタッフなどは「頼りがいがある」と見えやすいらしく、イケナイ関係に突入しやすい。名作『恋は雨上がりのように』では中年男性の主人公が若い女性の誘惑を耐えきったが、現実にはそんなことができる男性は少ない。

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女性側が年配の方でも、職場での接触が多いために不倫関係になりやすく、ときにはダブル不倫で配偶者が店に怒鳴り込んでくる、なんてことも……。

こうした店内恋愛のいざこざの果てに、スタッフの大量退職につながって閉店した、という飲食店の実例を私はいくつか知っている。

独身者の恋愛まではなかなか禁止できないが、少なくとも不倫関係については、お店のルールとして明示的に禁止しておくことが、飲食店を長く続けて繁盛させるための「あまり注目されないが、決して忘れてはならない基本ルール」のひとつと言えるだろう。

重野 和稔 飲食店プロデューサー、飲食店経営者

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しげの かずとし / Kazutoshi Shigeno

株式会社Rush Forward 代表取締役。1969年、東京都生まれ。学習院大学卒業後、住友銀行、外国人向け高級賃貸マンション開発会社、外資系プライべートバンクを経て、30歳で飲食業界に参入。「紅虎餃子房」「万豚記」など人気店を運営する際コーポレーションで2年間修行する。
2002年9月、独立。現在国内では、12種の塩を肴に日本酒を楽しむ「GALALI青山店」、12種類の味噌を肴に黒糖焼酎を楽しむ「がらり千駄ヶ谷店」、地産地消にこだわった蕎麦居酒屋「がらりつくば店」などを経営。直営店の展開だけでなく、店舗立ち上げの段階から支援するプロデュース事業、既存店を再建・活性化させる運営コンサルティング事業も行う。

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